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キミとボクの恋戦争

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「先輩が好きなんですわ、愛してます」

え、それ何て言う少女漫画?
間抜けにも俺が思ったのは、そんなしょうもない事だった。
ぽかんと開いたままの口に、チャンスと言わんばかりに噛みついてきた何か。
それが先程の砂糖のような台詞を吐いた生意気な後輩のものだと気付いたのは、その後輩が閉じていた瞼をそっと開いた時だった。

「は、おま、何してくれてんねんっ…!」

何の断りも無く、ちゃっかり舌まで差し込んできた後輩_財前光に、漸く俺の中の感情が総動員で沸々と怒りを込み上がらせてくる。
少し湿った己の唇を乱暴に拭い、思い切り光を睨みつけてやった。
だけどこの後輩ときたら、怯むどころか挑戦的な瞳で俺を見つめ返してきよった。
以前から色んな意味で恐ろしい奴だとは思っていたが、ここまで肝が据わっているとは。
…なんて言うか、もうただただ逃げたい。そんな衝動に駆られる。
この場に居ることに耐えられない。
そう思った俺の足は、本能に従って一歩一歩と後ずさっていく。

「先輩、逃げんでください」

「い、嫌や、来んな!俺に近づくな!」

「せんぱ、」

「何も言わんで!俺は何も聞いとらん、知らん、何もなかった…せや、何もなかった、うん」

「ちょ、待ってって、先輩!」

己に言い聞かすようにぶつぶつと呟き納得した!と自身に言い聞かせ、光が俺の腕を掴もうとするよりコンマ二秒程早く駆け出した、それはもう部活や体育の授業の時でさえ出せなかった自己ベストを叩き出す勢いで。
何や、俺頑張ったら出来る子やんけ、今度公式で記録更新したんで!
なんて悠長に思っているのは、やっぱり動揺してしまっているからに他ならない。
後ろを振り向かないように、俺を呼び止める切羽詰まった声を聞かぬように、只管走り抜ける。
謙也の気持ちがちょっと味わえたかのような全力疾走だったと後に語る。
精一杯駆けるとこんなにも風が気持ちいいなんて知らなかった。
だけど、それも俺の体力では直ぐに限界が追いついてしまう。
徐々に落ちるスピードの中、酸素を取り入れながら光の顔を思い浮かべた。

「光が、俺の事、好き…?」

ぽつり、と確認するように言葉を漏らす。
何も無かった事になんかもちろん出来なくて、俺は誰も居ないのを確認してからばっと蹲る。

嘘や嘘や嘘や、あの生意気でこれっぽっちも可愛さの欠片なんて無い、あの後輩が俺を好きやて、ましてや愛してるやなんて。
思い返せば返す程、先程の言葉が光の声で忠実に再現されて、思わず耳を固く塞いでしまう。

何でや?
さっきまでいたって普通に会話しとったやんけ、それが何で愛の告白に繋がんねん!
って言うか、有り得へんやろ、普通に考えて。
俺は男で、光も男。ただの部活の先輩と後輩の関係。それ以上でも以下でもない、はずや。
あ、言うとくけど、小春は別やで?性別とか関係あらへん、それを超えた絆で繋がっとるんや!
…じゃなくて。話を元に戻すが、そりゃ後輩の中では一番親しいし、何度か互いの家を行き来した仲でもあるが、それだって何ら突っ込みどころのない正常に作動した日常だろう。
それが、どこをどう間違えてしまったというのか、あの後輩は。
もしかして、俺と小春に感化されてしまった、とか?
それならば、イケナイ道に光を引き摺り込んだのは自分のせいってことになる。

「あー俺はどうしたらええねん!」

次会った時、光にどう接していいか、わからへん。

作品名:キミとボクの恋戦争 作家名:arit