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B.R.C 第一章(2) 奪われた神具

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#11.帰還【BR】



 しゃべっていた虚の首が、骨という支えを折られ九十度以上右に傾いている。つぅ、と悲鳴すら上げることが叶わなかった虚の鼻と口から一筋の血が流れた。

「日番谷」
「すみません、ムカついたもので」

 咎めるという訳でもなく、少し呆れの混じった声音で、王属特務の男が日番谷の名を呼び、それに平淡な声が返る。
 有らぬ方向へ首が折れ曲がった虚を捕えていた氷が、音を立てて弾けた。どう、と重い身体が床に倒れると、足下から黒い霊子となって消えて行く。

「ひ――――っ!!」

 引き攣った声が上がる。
 斬魄刀でも鬼道でもなく、頭部への蹴り一つで虚を葬った日番谷に死への恐怖が跳ね上がったのだろう。人型を保っていた虚たちは次々にそれを脱ぎ捨て、死神たちには見慣れた仮面をつけた異形へと姿を変え、日番谷の氷から死に物狂いで脱出を図る。
 身体を氷が切り裂き血が噴き出すが、それにも関わらず身を捻り、無理矢理に氷の拘束から逃れると、ところどころに氷を張りつけたまま、虚たちは壁を突き破って外へと飛び出した。
 す、と日番谷が右腕を上げる。
 人差し指一本を立て、その指先を見る見るうちに小さくなって行く虚たちの背に向けると、瀞霊廷の上空に十一の巨大な氷像が出来上がった。
 たった指一本。それだけで、日番谷は十一体の虚を氷づけにして見せたのだ。

「あれ、どうします? 統括」

 統括、と聞き慣れない名称で呼ばれたのは、王属特務の男だ。

「こちら側としては、壊して構わないが」

 そう言って、統括は額で揺れるオレンジの炎と同色の瞳をつい、と元柳斎に向けた。
 炎と同じ色だというのに、その瞳の輝きは静かだ。感情が読めない、とも言うだろうか。
 尸魂界側はどうだ、と問う目に答えたのは、元柳斎ではなく涅だった。

「ただ殺すだなんてもったいないことをするんじゃないヨ。私の下で研究材料として、殺してくれと希(こいねが)う程の苦しみを味あわせてやろうじゃないカ」
「だ、そうっスけど」
「なら、一体を除いて、後は壊していい」
「何だって? たった一体だなんて冗談じゃ―――」

 涅が不満に満ちた声を零す中、日番谷は突き出していた手をぐっと握り込む。すると、遠くの方でカシャン、と乾いた音がした。
 一拍置いて、涅の耳障りな甲高い悲鳴。

「何をしているんだネ?!」
「うるせぇな。ちゃんと残してやってんだろ、一体」
「一体だけだなんて冗談じゃないヨ!」
「悪いが上司の命令なんでな」

 詫びれた様子もなくケロリとそう言ってのける日番谷に、涅は生意気なガキだなんだと文句を垂れながら悔し紛れに地団駄を踏む。

「日番谷、連絡を頼む」

 ダン、ダン、と床を踏みつける涅を横目に、統括は日番谷に言う。
 こくりと一つ頷いて、日番谷は大きく開いた壁の穴の際に立ち、

「縛道の七十七、天挺空羅!」

 鬼道を放つ。
 霊圧が網状に張り巡らされ、複数人の意識がカチリと繋がった独特な感覚が日番谷を始め、統括及び死神たちにも襲った。

「おい、聞こえるか」

 頭を挟むように手を添えた日番谷が空に問う。

『お、何だ? 日番谷か?』
『え? 日番谷氏……と、今の声は山本氏ですか?』
『遅い』
『お、すげぇ。ランボと雲雀の声も聞こえる』
『うるせぇ、能天気野郎! 任務中だ、ポヤポヤすんじゃねぇ!』
『相変わらず細かい男だな、タコヘッド!!』
『うるせぇ、芝生頭! 声でけぇんだよ、テメェは!』
『あなたも十分うるさいですよ、獄寺隼人』
「確認取った俺が悪かった。もういい、お前ら全員黙れ」

 頭の芯を揺さぶるような騒がしさに、ひくり、日番谷のこめかみが引き攣る。
 この声は死神たちにも当然聞こえており、不愉快そうに顔を歪める者、思わず耳を塞ぐ者、驚いたように目を丸くする者と反応は様々だが、苦笑いを浮かべたのは統括ただ一人だった。

「皆、用意は出来てるか?」
『十代目!』

 騒ぐ脳内の声と日番谷の間に、やんわりと割って入った統括の声に、喜色に染まった声が上がる。

「負傷者は見られるが、死神たちは全員無事だ。こっちは片付いた。次は、皆の番だ」
『はい!』
『了解だぜ、ツナ』

 姿の見えない仲間に一つ頷く。

「これより、中央四十六室を語る虚の討伐にかかる。一体残らず倒してくれ」
『おう! 任せておけ! とにかくこの中に居る奴を倒せばいいのだろう!』
「ヴァストローデも居るんだ。油断すんなよ」
『ぬ、何故バスローブが居るのだ?』
『バスローブじゃねぇよ、アホ!!』

 あれだけ説明してやっただろうが、と再び頭に直接響く声が騒ぎ始め、日番谷は呆れを含んだ息を吐く。

『ねぇ、早くしなよ』

 そこに苛立った声が。それに促されるように、統括が口を開いた。

「皆、気を付けてくれ。―――開始!」

 襲撃の合図。
 それに返す声が幾つか上がったかと思うと、

「な、何だぁっ?!」

 一護が驚いた声を上げるほどの揺れが襲う。
 地震、ではない。
 中央四十六室の拠点とされる禁踏区から、強大な霊圧が噴き上がり、それが地面と言わず、空気と言わず、尸魂界そのものを揺らすかのような衝撃を生み出したのだ。
 その強大さは副隊長が膝を着き、隊長ですら立つのがやっとという程。上位席官の実力を持つとは言え、隊長格には及ばないルキアは一瞬気を失い、倒れそうになった身体を阿散井が慌てて支えた。
 気を失ったのが一瞬で済んだのは、日番谷がすぐに鬼道で結界を張ったおかげだ。

「あの馬鹿野郎共が……っ!!」

 そう吐き捨てて、日番谷の姿が一瞬にして消える。
 瞬歩だ。
 その後すぐに尸魂界を揺るがしていた力は治まり、さらに数秒の間を置いて日番谷が戻って来た。

「ったく、あいつら力の加減ってのを知れってんだ。絶対今ので大半の死神がぶっ倒れたぞ」
「死神だけで済めばいいけどねぇ……」

 ポツリぼやいた京楽の声に、日番谷は目に見えて肩を落とした。
 彼の言う通り、被害は死神に留まらず、瀞霊廷の住人にまで及んでいるだろう。下手をしたら流魂街にまで影響が出ているかもしれない。
 痛むこめかみを揉んだ。

「……遅くなり申し訳ありません、総隊長」

 ふう、と諦めにも似た溜息を吐いて、日番谷は元柳斎に頭を下げた。

「―――よく戻った、日番谷隊長」

 ゆるりと首を振って、元柳斎が改めて日番谷を迎える。

「否、王属特務幹部日番谷冬獅郎殿、とお呼びした方がよろしいかの」

 はっ、と息を呑んだ者が数名。特に、松本は弾かれたように日番谷を振り返った。

「いえ。尸魂界に居る限り、叶うならば十番隊隊長日番谷冬獅郎として立たせていただきたいのですが」
「隊長……」 

 安堵と不安。相反するその感情を同時に抱き、複雑な表情を浮かべる松本に、日番谷は一つ苦笑いを浮かべた。

「確かに俺は王属特務だ。だが、お前を―――十番隊を、放りだすようなマネはしねぇよ」
「よろしいのか?」
「はい。統括には了承を得て居ます」

 確認のために問う元柳斎に、迷いなく日番谷が応える。