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B.R.C 第一章(2) 奪われた神具

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#16.護りたいもの【BR】



 試合という名の殺し合い。
 中央四十六室の代行を名乗る虚が、護廷十三隊の隊首にそれを命じたところで、日番谷はモニターを見上げたまま、ポツリと零した。

「尸魂界へ戻る」

 それは静かなものだったが、隠しきれない怒りに満ちていた。

「道を開いてくれ。出来るなら、ここ、隊首会会場に」
「え……、で、でも、それには霊王の許可が……」

 しどろもどろに入江が応えれば、ギロリと射殺さんばかりの翡翠の瞳が向けられ、「ひぃっ」と情けなく引き攣った声が上がる。

「俺は元々尸魂界駐留隊士だ。戻って何の問題がある」
「問題大有りだろうが! ここに居る限り、お前は「雪」の守護者、十代目の部下だ! 隊長じゃねぇーんだぞ!」

 尸魂界では、ヒエラルヒーの上位に座していた日番谷。命令する立場であり、大方自己判断での行動が許されていたが、ここ、霊界ではそうはいかない。
 霊界では霊王が絶対であり、王属特務では統括の命令が絶対だ。今、日番谷の独自の判断で動く事を許可する訳にはいかなかった。

「俺は、仲間を見捨てるつもりはない」

 その言葉は「雪」の守護者ではなく、十番隊隊長としてのものだった。
 日番谷は、霊界に戻ったからと言って十番隊隊長を辞めるつもりなど、毛頭なかった。その意志表示のように、日番谷は霊界に戻ってからもずっと死覇装に身を包んでいた。

「てめぇ……っ!」

 しかし、それは、霊界に身を置く者としては、許されないことだ。
 霊界に居る限り、霊王を守ることを第一としなければならない。日番谷は、その霊王よりも尸魂界を、死神を取るというのだから、それは裏切りにも等しい。
 獄寺が声を低くして呻くが、日番谷は臆する様子もなく、ただ強い眼差しで以て獄寺を真っすぐ見返していた。

「獄寺くん」

 その膠着状態に終止符を打ったのは、この場で最も高い地位にある沢田だった。
 このままでは、いつ握りしめられた獄寺の拳が日番谷に向けられるかわからない。落ち着いて、と言わんばかりの静かな声が獄寺の名を紡いだ。
 次いで、沢田は日番谷に目を向ける。

「日番谷くん、一つ聞きたいんだけど、いいかな?」
「……何だよ」

 訝しげに眉根を寄せる日番谷。
 少しばかり下から睨み上げて来る日番谷に、沢田は問う。

「死神が好き?」

 それはとても単純な問いだった。しかし、日番谷はそれに悩んだ。
 悩んで、考えて出した答えは、

「そういう訳じゃない」

 ゆるり、首を振る。

「死神の方が好きで、お前らが嫌いという訳じゃない。ただ、護りたい奴らが居るんだ、あそこに」

 そう言って、日番谷は目をモニターへと向ける。
 薄暗い部屋の中、自分の命か、副官の命か、仲間の命か、どれかを選べと迫られている“仲間”たちが映っている。

「俺が護りたいと思うのはお前らでも、霊王でもない。死神しての仲間であり、部下である、あいつらだ」

 だから、護りに行くのだと、日番谷の目が語る。
 獄寺は気に食わないと顔にありありと浮かべ、山本は困ったような笑みを浮かべて成り行きを見守っている。入江とジャンニーニはハラハラとした様子で落ち着きなく椅子に座り、スパナは表情も変えずにただ立っている。
 日番谷と沢田の視線だけが交錯していた。
 しばらくの間の後、沢田が笑った。

「スパナ。あの部屋に、道を繋げてあげて」
「十代目?!」

 獄寺が声を上げる。驚いたような、咎めるような、そんな声を沢田は微笑一つで治めた。

「これは、統括としての指示だよ。状況は緊急性が高いと見て、日番谷くんには、一足先に向かってもらう。あいつらの話じゃ、中央四十六室もあの部屋の様子を見ているらしいからね。追放したはずの日番谷くんが飛び込めば、向こうも混乱するんじゃないかな? 注意が日番谷くんに向いている間に、獄寺くんたちに中央四十六室を包囲してもらって、一気に攻める。獄寺くん、悪いけどすぐに霊王に謁見の申し入れを頼めるかな?」
「し、しかし。……いえ、何でもありません。行ってきます」

 獄寺は一礼して部屋を後にした。

「トウシロウ、こっちだ」

 彼が出て行った後、スパナが尸魂界へ道を開くために日番谷を読んだ。

「日番谷くん、十番隊隊長として戻るんだから、限定霊印を忘れないようにね」
「―――おう」

 先を歩くスパナを追おうとした日番谷を呼び止めた沢田は、柔らかく笑って、

「その羽織、大事にしなよ」

 霊界に戻ってからも身に纏い続けていた死覇装。その上で存在を主張する「十」の文字。
 沢田の言葉の真意を汲み取った日番谷は、スパナを追って去る前に一度、沢田を振り返り、深く頭を下げた。

「良かったのか? ツナ」

 スパナと日番谷が出て行った扉を見つめたまま、山本が問う。

「俺に止める権利はないよ」

 彼の持つ権威を振るえば、日番谷を抑えつけることなど簡単だっただろう。
 権利がなかった訳ではない。彼は、日番谷の意思を尊重したのだ。それは実に沢田らしい。

「さすがツナだな」

 あっけらかんと笑って頭の後ろで手を組む山本に、「そうかな」と沢田ははにかみ、

「じゃあ、リボーンに怒られに行こうかな」

 と踵を返して部屋を出る。山本もそれに続いた。
 王属特務統括からの、それも緊急を要する謁見の申し入れだ。突然なものであったとしても、獄寺のことだ。孫条寺に関することだとも伝え、いっそう早く謁見が通るようにしてくれているだろう。
 その予想は間違っておらず、部屋を出て霊王の御座(おわ)す宮に向かう途中、角から濃い銀髪が覗いた。
 「十代目!」と沢田を呼んで駆け寄って来る獄寺。

「お、早ぇな。さすが獄寺」
「ったり前だ! 十代目、霊王が謁見の間でお待ちです!」
「わかった。すぐに向かうよ。ありがとう、獄寺くん」
「いえ、とんでもないっス! じゃあ、俺は幹部の連中を集めておきます」
「うん、お願い」

 沢田と話をする獄寺はいつも目を輝かせている。その様子は、主人に誉められた忠犬にしか見えない。
 沢田の右腕だと自負する彼は、その背中が角を曲がって見えなくなるまで見送り、沢田が曲がり角の向こうに消えた途端に、眉間には深い皺が刻まれ眼差しは険しいものへと変わる。

「ボーっと立ってんじゃねぇよ、能天気野郎! さっさと幹部の奴ら集めんぞ!」
「おー」

 王属特務幹部の、天候の守護者の証である指輪には通信機能がついている。指輪からの通信は技術専門部へと繋がっており、逆に技術専門部から指輪へと通信を繋げることも可能だ。
 ふらりふらりと、何処からともなく現れ何処かへと消えて行く雲雀や六道に連絡を取る場合には特に、捜し回るよりも通信という手段を取った方が早い。そのため、床を踏み鳴らすようにして歩く獄寺が向かう先は、つい先ほど出て来たばかりの技術専門部の通信ルームだ。
 早く来いと声を荒げる背中に気のない返事をしながら、山本は来た道を戻る。
 開いた戸を開ければ、巨大モニターに、自分たちが知るよりもいっそう幼くなった「雪」が舞い降りた。その姿に驚きと安堵の表情を浮かべる、自分達の知らない彼の同僚たちを見て、山本は一つ、笑みを零した。