二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

B.R.C 第一章(2) 奪われた神具

INDEX|8ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

#17.おかえりなさい【BR】



 互いに言葉を補いながら霊界での事を話す日番谷と沢田。

「俺達が孫条寺を取り逃がしたせいで、皆さんの大切な仲間が何人も犠牲になってしまいました。……本当に、すみません」

 謝って済む問題ではない。その事は重々承知だが、頭を下げずにはいられなかった。
 顔も名前も知らない死神たちだが、彼らは確かにここで生きて居た。そして、彼らの大切な部下だったのだ。その一つ一つの命は、決して軽いものではない。
 見ず知らずの死神を想って沈痛な面持ちで目を伏せ、頭を深く下げる沢田。それに、日番谷も倣う。

「事の全てが、貴方方の責任という訳ではありますまい。中央部に入り込まれ、あまつさえ気付かずに居た我々にも相応の落ち度がございます。どうか、顔を上げて下さいますよう」

 王属特務は霊界に属しており、尸魂界の護廷十三隊よりも、それこそ最高司法機関である中央四十六室よりも高い地位にあたる。その二人が、自分達に頭を下げる様に、死神達は言葉を失った。
 数十年という付き合いのある日番谷は、立場上滅多な事がない限り頭を垂れる事はなく、沢田に至っては王属特務を従える者だ。二人が頭を下げるという事は、決して軽い事ではない。

「何か、意外だな」

 一護は戸惑いを浮かべた顔を指先で掻く。

「王属特務とか、霊界とかって尸魂界よりも偉いんだろ? 何かもっと、こう、偉そうっつーか、態度がでかいっつーかさ」

 そんなイメージだと、一護は言う。
 それに同意する者は多かった。
 口には出さないが、阿散井も、慈悲も何もない、もっと冷たい者たちの集まりかと思っていた。
 霊界は、今まで霊界に被害がないと判断すれば、尸魂界がどんなに荒れようが、尸魂界の住人が何人命を落とそうが、不干渉という態度を崩さなかった。
 尸魂界など、霊界にとっては取るに足らないものなのだろうと、皆声を出さずも思っていた。
 しかし、彼らは自分たちが思っていた霊界の姿とは違う。

「別に、霊界の者が皆沢田のように、他人に心を傾けるような奴らじゃない。どちらかというと、お前らが思うように、自分達の住む霊界が安全ならば、尸魂界がどうなろうが、俺達王属特務の誰かが死のうがどうでもいい奴らの方が多い」

 だけど、と日番谷は沢田を見る。
 彼は違う。霊王は違う。
 王属特務幹部や、霊王守護者には、どこか冷めた面がある。命令だと割り切れば、彼らは何だってするだろう。破壊も、殺人も、その対象が何であり、誰であろうとも。躊躇いはしても、それが命令である限り必ず遂行する。部下というのは、そういうものだ。
 しかし、その理不尽を、上に立つ者である霊王と沢田が許さない。
 歴代の霊王、王属特務統括隊長とは、彼らは大きく違った。
 過ぎる程に、優しい。
 部下の性質は、彼らに命を下す者たちによって左右される。
 霊界が冷酷な存在となるか、王属特務が非道な存在となるか。それは霊王と沢田の采配次第。
 一護たちが、霊界や王属特務が、冷たい者たちではないと感じたのは、霊王や沢田の采配故だろう。

「霊王と統括が、今の霊王と沢田で良かったな。歴代の統括なら、間違いなく傍観してただろうし、霊王は尸魂界に降りる許可なんか出さなかっただろうぜ」

 しみじみと頷く日番谷。
 霊界にとって、尸魂界の護廷が誰であろうと関係ないのだ。隊長同士の殺し合いを止める義理はない。一昔前ならば、隊長たちが殺し合い、残った一人をも失って、中央四十六室を名乗る虚が霊界に乗り込もうかと動きを見せた頃にようやく王属特務の重い腰が上がると言ったところか。
 そうなれば、尸魂界など見るも無残な姿に変わり果ててしまうだろう。
 そんな話を聞けば、一護たちもまた、しみじみと思う。

「……なんつーか、ホント、ありがとな」
「いえ、そんな……」
「いや、俺、王族特務とか霊界とかよくわかんねーけど、お前が統括で良かったと思うぜ」

 うん、うん、と何度も頷いた。
 沢田は、癖なのではないかと思う程、もう何回も見せている苦笑いを浮かべる。

「本当に、俺は何も。それに、俺は、『予防・防衛』のための尸魂界駐留隊士が日番谷くんだった事が、皆さんにとって一番の救いだったと思います」
「はぁ?! お前、何言って……」
「だってそうじゃない? 日番谷くんは元々尸魂界の人だけど、あんなに死神の皆さんの事を気に入ってるなんて知らなかったなぁ。尸魂界が変だって霊界に駆け込んで来たり、皆が危ないから助けに行くって言い張ったり、俺達よりも十番隊の方が大切で護りたいんだって宣言したり―――」
「わっ!? だぁっ!! おまっ、もうしゃべるな!!」
「あはは、そんな焦る事ないじゃない。全部本当の事なんだから」
「だあぁぁっ!! そういう問題じゃねぇっ!!」

 珍しく目元を淡い朱に染め、わたわたと落ち着きなく、沢田の口を覆わんと腕を伸ばすがその細身はいともたやすくかわされ、微笑ましいと言わんばかりの笑みが沢田から送られる。ますます居たたまれなくなった日番谷は、いっそう顔を赤くして沢田に跳びかかった。
 ぎゃんぎゃんと吠える日番谷と、あははとそれを流す沢田。すると、手を取り組んで攻防を続ける二人の元へ乱入者が一人。

「たーいちょーっ!!」
「うわっ?! ちょ、退け松本!! 重いっ!」

 日番谷の背に飛び込んだ松本。その表情はとても嬉しそうだ。
 先ほどまで、安堵の中にも不安を滲ませていた儚げなものとは違う、安堵と喜びをいっぱいに浮かべた、彼女らしい表情だった。
 松本は不安だったのだ。帰って来る可能性は無いに等しかった隊首が無事に戻ってきたことに始めは歓喜したが、本来、彼の所属は王属特務だという。また、置いて行かれるのではないかと、思っていた。
 日番谷が霊界の命令だからと十番隊を率いていた訳ではないことは、一番近くで彼と共に在った松本には良くわかっていた。彼が、十番隊の隊士たちを身体を張って護る様を幾度見た事だろうか。そうして四番隊で伏せる事になった彼を何度叱った事だろうか。
 日番谷にとって、十番隊は共に戦う仲間であり、護るべき者達であった。
 しかし、尸魂界では隊長と言う座に就き命じる立場にある日番谷は、霊界では違う。彼の上には統括である沢田が居り、霊王守護者や霊王が居る。上の命令を、部下である日番谷が聞かない訳にはいかない。
 例え本意でなくとも、霊界に戻れと言われれば、日番谷は戻らない訳にはいかないだろう。
 しかし、沢田と日番谷の話を聞いて確信した。
 彼は、ここに居てくれるのだと。王属特務よりも、死神を、十番隊を選んでくれたのだと。
 置いて行かれることは、ないのだと。

「ありがとうございます、隊長」

 鼓膜を揺らした副官の声に、ピタリと日番谷は首に巻きつく腕を引き離そうと四苦八苦する手を止めた。

「ありがとうございます」

 振り返れば、久方ぶりに見る松本の笑顔。

「ありがとな、冬獅郎!」
「助かったよ、日番谷隊長」
「いやぁ、本当にね。一番の功労者だ」
「うむ。感謝する、日番谷」

 松本に続いて、部屋のあちらこちらから日番谷への感謝の言葉が飛ぶ。