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ゴーストQ

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思い返せば水谷はユニフォームの似合わない奴だった。



 思い返せば水谷はユニフォームの似合わない奴だった。いや、似合わないという言い方には少し違和感がある。他に似合いすぎる服装が多すぎるから、繰り下がって野球のユニフォームが浮いて見えたのかもしれない。
 私服校といえども面倒くさい男子の大半が制服もどきを着てくる環境の中で、水谷の格好はなんだか違っていた。疎いオレには、よく分からないけどとにかく違っているということしか判別できなかったが、パっと目を引く何かが水谷にあった。
 それにあの顔とあの髪型も、高校球児度がだだ下がりしている原因に含まれていた。
 顔はともかく、髪型はどうにかならなかったのだろうか。生まれてからこのかた、水谷くらいの長さまで髪を伸ばしたことのないオレは、あのもしゃもしゃとした質感が邪魔に思えて仕方なかった。しかもことあるごとに寝癖だ、くせっ毛だと騒ぎ立てるものだから、いっそ花井や巣山のように潔く坊主にすればいいんじゃないかな、と言ったことがある。
「やだよ」
「なんで」
「ぽっ、ポリシー?」
 なぜ首を傾げて答えるのか。多分使い慣れてない単語を頭の隅から無理矢理出してきたからだな。
 その意味不明なポリシーで水谷は三年間、あの長ったらしい髪型を貫き通していた。見上げた根性だった。オレにはとても真似できない。
 同性のオレから見ても、どこか『違っていた』水谷はそりゃあモテていた。知り得る限りでは累計五人の女子から告白されていた。一年と二年のときにひとり、三年のときに三人。
 なぜオレがこんなことを覚えているのかというと、大抵女子の告白というものは、まず他の野球部男子への根回しから始まるので、必然的にそういう話が聞こえてくるのもあったし、何度か自分も協力していたからだった。
 しかし水谷はどの告白も丁寧に断り、結局今に至るまで彼女を作っていなかった。
 その一度にオレは遭遇したことがある。最後の夏休みが明けてすぐのあたり、水谷と歩いて帰っていたら、いつも寄っていたコンビニの前で呼び止められた。とはいっても水谷だけだけど。
 駆け寄ってきた女子が水谷の姿を見つめると、あっという間に二人の世界が形成され、オレは電柱やアスファルトと同じくらいどうでもいい存在になっていた。つまり背景。夕日が二人を染め、まるで青春ドラマのワンシーンのようだった。
「水谷せんぱいが好きです」
「……ごめん」
 先輩、と言ったということは相手の女子は一年か二年か。背景の分際で余計な詮索をしてしまった。
「好きって言ってくれたのはすごく嬉しいんだけど……」
「…………」
「ごめんな」
 水谷が頭を下げたら、女子の瞳からわっと涙が溢れ出した。オレはその泣き方がとても美しく思えた。女子ってこんなふうに泣くのか、きれいだなと驚いたけれど、まじまじと見るものでもないとすぐに目を逸らした。

作品名:ゴーストQ 作家名:さはら