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ゴーストQ

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 とにかく横にいるバカはどういうつもりであんなに可愛い子を振ったのだろう。歩みを進めるうちオレはなんだかムカムカしてきて、水谷の後頭部を軽く殴ってしまった。
「いってぇ!」
「お前いつかバチが当たるぞ」
「なんでよ」
「人の好意を粗末にしてるからだよ」
「粗末になんかしてない」
 水谷が口を尖らせ、少し膨れたものだから、オレは少しムキになって言葉を続けた。
「今の子かわいいじゃん、付き合ってあげればいいのに」
 みるみるうちに隣の水谷が怒り出した。
「じゃあなんだよ、オレは何とも思ってないんだぜ、好きでもないのに付き合ってあげればよかったのかよ、オレはそういうの、オレは」
「水谷?」
「嫌なんだ……」
 ふらりと車道へ倒れそうになった水谷を、慌てて歩道側へ引っ張って連れ戻す。後ろからやってきた車が、長く伸びた水谷の影だけを轢いて進む。息継ぎをすることなく喋り続けたせいか、水谷はぜえぜえと荒く呼吸をしている。
「栄口」
「なんだよ」
「オレは……オレは好きな人に好かれたい」
「はぁ?」
 語尾を上げて聞き返したら幾分ガラが悪くなってしまった。どれだけ贅沢なんだと言い返したい。誰かから好意を持ってもらえるだけでも稀なのに、このバカはもっと上の次元しか頭にないわけである。
 オレが今の子に告白されてたら、二つ返事で承諾していた。わりとかわいくてオレのことが好き、それだけで十分じゃないか。
 ところが水谷は自分の好きな人から好かれたいと言う。やっぱりモテる奴は考えてることが違う。オレなんかとは違って選択権があるんだな。ふつふつと憎くなってくるぜ。
「本当にバチが当たればいいのに」
「どんな?」
「う〜ん」
 駅へと続く道へ徐々に人が増えてくる。水谷がオレの言葉に期待を抱いているのが見抜けて、アホかこいつはと思う。
「これからずっと女子から好かれない、とか」
 もしかしてこのバチが本当になったら、水谷は絶対今まで告白を断り続けたことを後悔するだろう。それで少しは告白のありがたみを知ればいいのだ。
「……それでもいいかもなぁ」
 水谷が地面へ視線を落とす。その横顔はとても悲しそうで、とても疲れているように見受けられたから、オレはそれ以上喋り続けるのをやめた。
 結局のところバチは当たることがなかった。それから文化祭のちょっと前あたりで、巣山の遠い友達から「好き」と言われても水谷は断っていた。その人が五人目で、あとはオレも知らない。
 多分水谷は今も不特定多数の誰かから好意を持たれている。五人目が超絶に可愛い子だったから、皆じっと息を潜めているだけで、きっと水谷へ告白したい子はまだまだいるに違いない。
 神様なんておそらく存在しない。もしそんなものがいるならば、早々に水谷へバチを当てているだろうし、あれだけ必死な女子の恋も叶っているだろう。
 好きな人に好かれたい。水谷の言葉を思い出す。結局誰の望みも叶うことなく、流れは淀んだまま、秋は終わりへと近づいていた。

作品名:ゴーストQ 作家名:さはら