ゴーストQ
駅で再会してから、水谷から一体どんな目に遭わされるんだろうとオレは身構えていた。あんなふうに妙にパワーアップした水谷が何を仕掛けてくるのか気が気じゃなかった。
けれどそのまま一週間ほど音沙汰はなかった。きっと水谷は忙しくてオレにかまけている暇はないんだ、と少し気を緩ませていた矢先、電話が鳴った。ちょうど寝ようとベッドへ入ろうとしていた時だった。
繋がらなければメールを打ってくるだろうと、枕の下へ携帯を突っ込んで放置していたのだが、一向に着信音は鳴り止まなかった。
「……何だよ」
「あっ、寝てた?」
とうとう痺れを切らして電話を取ってしまったオレへ、水谷が軽く尋ねてくる。
「別に」
いろんな意味が含まれている『別に』を、機嫌が悪そうに言ってしまう。
「オレ今仕事終わったとこ」
こんな遅くまでご苦労さんなことで。とは思ったけど、無言を貫いた。
「あのさぁ、栄口テレビ出る気ない?」
「は? テレビ?」
「そう、オレの友達紹介みたいな感じなんだけど」
「絶っ対嫌だ」
きつく即答しても水谷は引き下がらない。
「えー、ちょっとだけだからさー」
「死んでもヤダ」
「栄口はパネル持って返事してればいいだけだからさー」
「なんでオレなんだよ、他の奴に頼めばいいじゃん」
「オレは栄口がいいんだもん」
そんな私利私欲で人の平穏な日常を乱さないでくれ。いくらちょっとだけ、かつ返事をするだけでも、テレビ出演なんて晒し者になるだけじゃないか。
「マジで無理、オレ緊張して使い物にならない気がする」
「オレも一緒だから大丈夫だって!」
その変な自信はどこから来るんだよ。とにかく嫌なものは嫌だ。他を当たって欲しい。
「じゃあオレが野球部連中に連絡取ってやろうか? あいつら水谷に会いたがってたぜ」
「えっ、無理だよ?」
「なんで」
「オレもう栄口がやるってマネージャーに言ったし」
殺意がわいてしまった。事後報告かよ。
「それ取り消せ、んで他の人にしろ」
「えー」
「水谷さ、オレそういうの苦手って知ってるだろ」
「うーん……」
水谷が考え直すような様子で唸った。相当嫌がっているオレの意思が伝わったようだ。
「わかった」
「そーそー、そうしてくれ」
「覚えてたら言っておくねー」
間延びしたおやすみーが聞こえ、電話は切れた。覚えてたらってそんな、いい加減すぎるだろ。全く信用に値しない約束をされてしまった。