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ゴーストQ

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 次に目を覚ましたときはもう昼近かった。のろのろと起き上がってテレビをつけると、時代劇が映し出されたのでチャンネルを変えた。ワイドショーも不本意だっだけど妥協して、オレは学校へ行く準備をし始める。
 今日は休講で、この時間まで寝ていられることを話したときの水谷の顔といったらなかったな。
「大学生ってずるくね?」「オレも昼近くまで寝てたい」
 実は、水谷は昨日ではなく、珍しく休みだった一昨日うちに来る予定だった。それで「栄口の授業が終わったら、一緒にお好み焼きのおいしいとこ行こうよ」なんて話していたのに、突然入った仕事で全部ダメになってしまった。
 その連絡を受けた際、水谷から電話で泣きつかれたものだから、オレはつい「じゃあいつでもいいから来れば」と言った。迂闊だった。
 早朝にロケがあるというのに水谷は現れ、寝て、ちゃんと起きて仕事へ言った。多分一昨日の計画がパーになったぶん、ムキになってたんだろう。深夜に来て早朝に出るなんてことは今までなかった。あいつ大丈夫なんだろうか。こんなペースでオレと会っていて仕事に差し支えないんだろうか。
 こんな心配をしたってどうせ水谷はオレに会いに来るんだろうなぁ。無駄な心配なのかもしれない。
 身支度を整え、電源を消そうとテレビへ近づくと、髪へ静電気がちりちりと伝ってくる。間近で見る画面は光を放ってとても眩しい。番組のテロップが切り替わり、流れてきた文字にオレの動作が止まる。
『水谷文貴』
 てっきりまた新しいCMのことだと思っていた。
『水谷文貴、新人女優とお泊りデート!』
「……タレントの水谷文貴が先日、現在放送中のドラマ共演者……と交際していることが明らかになった。二人が手を繋ぎ、仲良くマンションへ入る様子を今日発売の週刊誌が報じた。同じドラマの共演者として意気投合したようだ。ドラマの結末からも、この二人からも目が離せない……」
 拡大されたモノクロ写真に男女の姿が写っている。帽子を被ってサングラスをしてはいるけれど、男のほうは確実に水谷だった。水谷が手を引き、引導するようにマンションへと入る場面だった。
 これ絶対付き合ってるよな。
 やけに冷静な判断をしてしまった。冷えたのは感情だけではなく、指先が水のように冷たくなっている。こんな推理をしたって自分を追い込むだけなのに、日付を照らし合わせ、突然仕事が入ったと言っていた一昨日に写真が撮られたことを確かめた。仕事じゃなかったんだ。オレとの約束を破って、別の人と会っていたんだ。
 間も空けず騒がしく離婚報道をし始めたテレビを消し、戸締りをして学校へと向かう。
 やっぱり水谷はテレビの中の人だった。それだけだった。そのシンプルな答えを一生懸命飲み下そうとしているのに、どんなに頑張っても喉が痛くなるだけだった。
 自転車を出していつものように漕ぎ出す。冷たい風が容赦なく頬を凍らせる。上着の襟へに首をすぼめて思い出すのは、水谷がオレへ与えてくれた言葉だった。まだ好きだとかまた会えるかなとか好きだとか付き合おうとか、こんなことになるんなら言って欲しくなかった。
 それとも全部嘘だったかもしれない。もしや高校のときあんなふうに突き放したオレへ、復讐するために近づいてきたのだろうか。だとしたら大成功じゃないか。水谷もここまでオレが心を開くとは思っていなかっただろう。
 信号待ちのときにメールが着信したけれど、送り主の名前を見るなり読まずに消した。ひどく機械的な動作だったと自分でも思う。

作品名:ゴーストQ 作家名:さはら