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雨と恋と狼さん

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出勤途中に機嫌を損ね始めたお空の神様は、とうとう涙を零し始めてしまったようだ。

「あーあ、傘忘れるなんて、ツイてないなぁ…」

帰ろうと扉を開けると、そこには叩き付けるように降り注ぐ天の恵み。
どうしたものかと躊躇して立ち止まっていたら、背中に人の気配を感じて振り返る。

「あ、佐藤くん…雨、すっごい降ってるよ~」

「本当だな。今日に限って…」

「え?佐藤くん車でしょ?別に構わないじゃない」

あわよくば、自宅まで送ってもらおうなんて考えて、にこにこと佐藤くんに近付く。
そしたら、邪な思いに気付いたかのように、佐藤くんが眉間に皺を寄せた。

「生憎今日は車じゃないんでな」

ぽんぽん、と頭を叩かれ、思わず唇を尖らせる。
やっぱり、気付かれていたようだ。

「そっかぁ、残念」

「ま、そういう事だから。…お前、傘は?」

「え?」

自分の傘を広げようとした所で、俺の異変に気付いたらしい。

「あ、うん、うっかり忘れちゃってさぁ。仕方ないから、近くのコンビニまで走ってって、傘買うよ」

それじゃあお疲れ様、と思い切って駆け出そうとした俺の腕を、佐藤くんが思い切り引っ張る。
思わず後ろに倒れ込みそうになるのを、佐藤くんの身体が支えとなって守ってくれた。

「びっくりした…どしたの、佐藤くん」

「お前、この土砂降りの中で、どんなに急いで走っても、コンビニ着くまでにずぶ濡れだぞ」

「…ですよね~」

小降りなら良かったのに、なんて恨めしく空を睨みつけても、願いを聞き入れてくれるわけもなく。

「はぁ…ちょっと治まるまで待つよ。佐藤くん、先に帰、」

「帰るぞ」

「え、いや、だから…」

「だから、入れっつってんだよ」

広げた傘を少しずらし、どうやらもう一人分のスペースを作ってくれているみたいだ。
彼の意図することを汲み取った俺は、顔に熱が集まってくるのを止められなかった。

「それって俗に言う相合傘―――」

「入るのか、入らんのか、はっきり、」

「入ります!入らせていただきます!」

佐藤くんの気が変わらないうちに、大人しく彼の横にちょこんと並ぶ。

「あ、でも、近くのコンビニまででいいからね。そこで傘買って帰るし」

「何で。家に傘あんのに、勿体ねぇじゃん」

「いや、でも流石に家までは悪いから…」

「そこまで言うなら…わかった」

本当、佐藤くんはつくづく優しさで出来てるんだなぁ、なんて笑ってみる。

作品名:雨と恋と狼さん 作家名:arit