雨と恋と狼さん
とん、と軽くぶつかり合う身体と身体。
最も鼓動が高鳴る、瞬間。
「あ、ごめ…」
流石に近付きすぎたかなぁ、と後悔すると同時に、目の前が暗くなる。
「佐藤く、」
俺の目線まで身を屈めた佐藤くん。
何してるの、何をするの。
そんな事、わかっているくせに、期待してたくせに。
そっと、優しく触れた唇は、雨に侵された冷たい空気から俺を救ってくれる。
温かい―――それは佐藤くんの存在そのもののように。
長くて短い幸福に、どうかこのまま時間を止めてください、なんて、柄にもなく願ってしまう。
「…相馬」
「さとう、くん」
誰かが見てる、とか、そんな興ざめするような言葉は言わない。
そもそも、周りに人が居ない事なんて確認済みだ。
そんな美味しい状況を逃すテはない。
くいくい、と佐藤くんの服の裾を引っ張れば、欲に濡れた佐藤君の瞳に居抜かれる。
いいよ、と見詰め返せば、何も言わずに引き寄せられる。
今度は、何もかも奪われてしまいそうな、強引なキスだった。
「さ、…とく、んッ」
深く合わさった唇から漏れる水音は、自分たちを取り巻く雨音より大きく響いているような気がして、途端に頬が熱くなる。
「ぁ、」
離れていく唇が、妙に切ない。
それを感じ取ったのか、未だ余韻に浸る俺の腕を引く佐藤くん。
彼の瞳は、熱に濡れてゆらゆらと揺らめいてた。
「相馬、やっぱり、家まで送る」
いいか、と。
問いかけれられたその一言は、拒否権など与えられない絶対的なことば。
俺には頷く事しか選択権がないというのに。
なんて、ずるい人。
「佐藤くん、寒いね。手、繋ごっか?」
返事を聞かずに、握り締めた佐藤くんの大きな掌。
寒い筈なのに、少し汗ばんだ手が、何だか嬉しかった。