こらぼでほすと 拉致6
フェルトが到着する少し前に、歌姫様の食事が届いた。背中にクッションをたくさん置いて座らせると、ニールがスープを口元に運ぼうとする。
「そこまでしていただくほど弱っておりません。」
「いいじゃねぇーか、たまにはやられてろ。風邪引いた罰だ。」
「風邪? 」
「ああ、おまえさん、過労から軽い風邪も患ってるんだぞ。コーディネーターは風邪を引かないとか言いやがったのは、誰だ? 」
昨年の年明けに、そんな会話をした。それに、何度かラクスは、自分はコーディネーターで風邪など引かないと宣言もしていた。ニールは、コーディネーターというのは、そういうものだと思っていたから、風邪だと言われて驚いたのだ。
「風邪って・・・ママ、こんなところにいては移ります。」
ニールの免疫力は、かなり低い。街角をブラブラするだけで、ウィルス性の風邪を貰ってしまうほどなので、ラクスは慌てた。だが、いやいや、と、ニールも引き下がるつもりはない。ドクターに予防注射はしてもらったから、とりあえず、メシ食え、と、無理に口元にスープを運ぶ。
「とりあえず、メシ食ってクスリ飲んで寝ちまえば、明日には、もっと楽になってる。」
「だから、自分でできます。」
スプーンで運ばれるスープを飲みつつ歌姫も反論するのだが、ちっとも言うことは聞いてくれない。スープが終ると、温かい果物だ。リンゴのシロップ煮を、ふたつほど食べさせられて、クスリを渡された。まるで子供のように世話してくれるので、ラクスは呆れたものの、こんなことは、さすがにママだけだから大人しく口にした。
「うん、おりこうさん。」
口元を拭われて食器を片付けるママは、何も口にしていない。ちゃんと、ママの分も用意されているのに、それはスルーの方向だ。
「ママ、そのスープを。」
「ん? 足りなかったか? 」
「違います。飲んでください。それはママの分です。」
「ああ、後にするよ。あんま腹減って無いんだ。」
「ですが、クスリも飲まなければならないのではありませんか? 」
ラクスのものとは別にクスリも用意されている。ニールは、毎日、処方されたクスリを飲まなければならない。だから、どこへ移動しても、きちんとクスリも届けられるようになっている。だというのに、監視するものがいないと簡単にスルーする厄介な人間だ。日々、悟空は、これだけは忘れないように監視している。
「おまえさんが寝たら、それからメシ食って飲む。」
「そんなことをおっしゃって・・・・スルーするおつもりでしょう。」
「病人は、余計なことに気遣いすんな。ほら、寝ろ。」
「それを飲んでくださらないと寝られません。」
本日の監視役はラクスしかいない。ここで引き下がるわけにはいかないので、ニールを睨みつける。とはいうものの、ニールに天下の歌姫様の眼力なんてものは通用しない。ニールにとってラクスはただの娘だ。
「一回ぐらい抜けたって、どうってことない。」
「そんなことはありません。・・・私の熱をあげるようなことをなさるつもりですか? 」
普段の歌姫様なら、こんな物言いはしない。ニールだから、素のラクスで叫んでいる。バンバンと布団を叩くと、ニールも、やれやれと看病用の椅子に座って、自分の持分を手にする。二口ほど飲むと、薬に手を出そうとするので、ラクスは動いてクスリを取上げる。
「・・・ママ? 」
「返せよ、ラクス。メシ食ってクスリなんだろ? 」
「私より召し上がらないつもりですか? 」
「しょうがないだろう。腹が減ってないんだ。」
「ダメです、無理にでもスープは完食してください。なんなら、私が食べさせてさしあげます。」
「おまえさん、さっきの仕返しか? いいよ、俺は元気だ。」
「お疲れです。その食事が何よりの証拠です。・・・さあ、召し上がってください。食べてくださらないなら、ドクターを呼んで診察していただきますよ。」
クスリを手にしたまま、内線に手を伸ばすと、多少、自覚のあるニールは大人しくスープ皿を手にする。今日は昼寝をしていないし、買い物で出かけて、そのまま本宅へ連れて来られた。だから、まあ、いつもよりは疲れている自覚はある。
「後で覚えてろよ? 」
「ほほほほほ・・・・ママの仕返しなど取るに足りませんわ。」
味わうといより無理矢理飲み込むようにしてニールがスープを飲む。その間は無言だ。途中でニールの手が止まる。
「そうだ。ラクス、一緒に年越ししたいっていうなら、ちゃんと俺にそう言え。拉致まがいのサプライズなんか迷惑だ。」
「私は昨年の年明けに予約しました。」
「そんなの忘れてるに決まってるだろっっ。年末に、俺に頼めば済むことなのに、トダカさんまで巻き込んで・・・・そういうのは年上の人に失礼だ。」
「ですが、ママは競争率が激しいので、こういう方法でないと一緒に年越しできません。」
「だから、俺にお願いすれば、そういうふうに予定を空けられるって言ってんだ。本宅に来ることになってたら、トダカさんとこの予定も先に片付けておける。俺からトダカさんに断り入れて、こっちに来るほうが穏便だ。だいたい、おまえさん、俺の都合とか完全に無視してるだろ? 確かに俺は暇な人間だけど、いろいろと年末年始は予定があるんだ。わかったか?」
今のニールは比較的時間のある生活をしているが、それだって年末年始の予定はあるし、ニール当人も、そのつもりで動いている。最初から年明けを本宅でするというなら、そのつもりで動いておけるし、周囲も騒ぎにならない。そのことについては叱るつもりをしていた、素直に、「一緒に年越ししてください。」 と、ラクスが電話のひとつも入れれば済むことだ。
「では、今年から、そうさせていただきます。」
それは、連絡さえしておけば、本宅に来てくれるということだから、ラクスもニコリと微笑む。時刻は、すでに深夜を廻っている。スープを必死に飲み終えたニールが皿を置くと、ラクスのほうはペコリと頭を下げた。
「あけましておめでとうございます、ママ。本年もよろしくお願いいたします。」
それを聞いて、ニールも微笑む。一口、水を飲み込むと、同じように頭を下げる。
「こちらこそ、よろしくな、ラクス。・・・ほら、クスリ返せ。」
「イヤです。そちらの果物をいくつか召し上がってください。」
「なぁにぃぃぃぃっっ。」
「さきほど、私に『ハウス』とおっしゃった罰です。私は犬ではありません。」
「言うこときかないからだっっ。」
ニールは年少組が言うことをきかないと、『ハウス』と叫ぶ。キラは、しょっちゅうやられているが、これだってニール限定の技だ。「白い悪魔」や「天下の歌姫様」を犬呼ばわりして問題ないのは、ニールがおかんだからだ。普通は周囲からタコ殴りにされる。もちろん、拳骨も叱責もニール限定だし、それについては誰も止めない。
「もういい。おまえはさっさと横になれ。」
クスリなんて後回しで、先に横にしようとしたら、歌姫様は大笑いだ。イヤです、なんておっしゃって、大笑いしている。
「ママ、ママ、こんなに楽しいのは久しぶりですわ。」
「そこまでしていただくほど弱っておりません。」
「いいじゃねぇーか、たまにはやられてろ。風邪引いた罰だ。」
「風邪? 」
「ああ、おまえさん、過労から軽い風邪も患ってるんだぞ。コーディネーターは風邪を引かないとか言いやがったのは、誰だ? 」
昨年の年明けに、そんな会話をした。それに、何度かラクスは、自分はコーディネーターで風邪など引かないと宣言もしていた。ニールは、コーディネーターというのは、そういうものだと思っていたから、風邪だと言われて驚いたのだ。
「風邪って・・・ママ、こんなところにいては移ります。」
ニールの免疫力は、かなり低い。街角をブラブラするだけで、ウィルス性の風邪を貰ってしまうほどなので、ラクスは慌てた。だが、いやいや、と、ニールも引き下がるつもりはない。ドクターに予防注射はしてもらったから、とりあえず、メシ食え、と、無理に口元にスープを運ぶ。
「とりあえず、メシ食ってクスリ飲んで寝ちまえば、明日には、もっと楽になってる。」
「だから、自分でできます。」
スプーンで運ばれるスープを飲みつつ歌姫も反論するのだが、ちっとも言うことは聞いてくれない。スープが終ると、温かい果物だ。リンゴのシロップ煮を、ふたつほど食べさせられて、クスリを渡された。まるで子供のように世話してくれるので、ラクスは呆れたものの、こんなことは、さすがにママだけだから大人しく口にした。
「うん、おりこうさん。」
口元を拭われて食器を片付けるママは、何も口にしていない。ちゃんと、ママの分も用意されているのに、それはスルーの方向だ。
「ママ、そのスープを。」
「ん? 足りなかったか? 」
「違います。飲んでください。それはママの分です。」
「ああ、後にするよ。あんま腹減って無いんだ。」
「ですが、クスリも飲まなければならないのではありませんか? 」
ラクスのものとは別にクスリも用意されている。ニールは、毎日、処方されたクスリを飲まなければならない。だから、どこへ移動しても、きちんとクスリも届けられるようになっている。だというのに、監視するものがいないと簡単にスルーする厄介な人間だ。日々、悟空は、これだけは忘れないように監視している。
「おまえさんが寝たら、それからメシ食って飲む。」
「そんなことをおっしゃって・・・・スルーするおつもりでしょう。」
「病人は、余計なことに気遣いすんな。ほら、寝ろ。」
「それを飲んでくださらないと寝られません。」
本日の監視役はラクスしかいない。ここで引き下がるわけにはいかないので、ニールを睨みつける。とはいうものの、ニールに天下の歌姫様の眼力なんてものは通用しない。ニールにとってラクスはただの娘だ。
「一回ぐらい抜けたって、どうってことない。」
「そんなことはありません。・・・私の熱をあげるようなことをなさるつもりですか? 」
普段の歌姫様なら、こんな物言いはしない。ニールだから、素のラクスで叫んでいる。バンバンと布団を叩くと、ニールも、やれやれと看病用の椅子に座って、自分の持分を手にする。二口ほど飲むと、薬に手を出そうとするので、ラクスは動いてクスリを取上げる。
「・・・ママ? 」
「返せよ、ラクス。メシ食ってクスリなんだろ? 」
「私より召し上がらないつもりですか? 」
「しょうがないだろう。腹が減ってないんだ。」
「ダメです、無理にでもスープは完食してください。なんなら、私が食べさせてさしあげます。」
「おまえさん、さっきの仕返しか? いいよ、俺は元気だ。」
「お疲れです。その食事が何よりの証拠です。・・・さあ、召し上がってください。食べてくださらないなら、ドクターを呼んで診察していただきますよ。」
クスリを手にしたまま、内線に手を伸ばすと、多少、自覚のあるニールは大人しくスープ皿を手にする。今日は昼寝をしていないし、買い物で出かけて、そのまま本宅へ連れて来られた。だから、まあ、いつもよりは疲れている自覚はある。
「後で覚えてろよ? 」
「ほほほほほ・・・・ママの仕返しなど取るに足りませんわ。」
味わうといより無理矢理飲み込むようにしてニールがスープを飲む。その間は無言だ。途中でニールの手が止まる。
「そうだ。ラクス、一緒に年越ししたいっていうなら、ちゃんと俺にそう言え。拉致まがいのサプライズなんか迷惑だ。」
「私は昨年の年明けに予約しました。」
「そんなの忘れてるに決まってるだろっっ。年末に、俺に頼めば済むことなのに、トダカさんまで巻き込んで・・・・そういうのは年上の人に失礼だ。」
「ですが、ママは競争率が激しいので、こういう方法でないと一緒に年越しできません。」
「だから、俺にお願いすれば、そういうふうに予定を空けられるって言ってんだ。本宅に来ることになってたら、トダカさんとこの予定も先に片付けておける。俺からトダカさんに断り入れて、こっちに来るほうが穏便だ。だいたい、おまえさん、俺の都合とか完全に無視してるだろ? 確かに俺は暇な人間だけど、いろいろと年末年始は予定があるんだ。わかったか?」
今のニールは比較的時間のある生活をしているが、それだって年末年始の予定はあるし、ニール当人も、そのつもりで動いている。最初から年明けを本宅でするというなら、そのつもりで動いておけるし、周囲も騒ぎにならない。そのことについては叱るつもりをしていた、素直に、「一緒に年越ししてください。」 と、ラクスが電話のひとつも入れれば済むことだ。
「では、今年から、そうさせていただきます。」
それは、連絡さえしておけば、本宅に来てくれるということだから、ラクスもニコリと微笑む。時刻は、すでに深夜を廻っている。スープを必死に飲み終えたニールが皿を置くと、ラクスのほうはペコリと頭を下げた。
「あけましておめでとうございます、ママ。本年もよろしくお願いいたします。」
それを聞いて、ニールも微笑む。一口、水を飲み込むと、同じように頭を下げる。
「こちらこそ、よろしくな、ラクス。・・・ほら、クスリ返せ。」
「イヤです。そちらの果物をいくつか召し上がってください。」
「なぁにぃぃぃぃっっ。」
「さきほど、私に『ハウス』とおっしゃった罰です。私は犬ではありません。」
「言うこときかないからだっっ。」
ニールは年少組が言うことをきかないと、『ハウス』と叫ぶ。キラは、しょっちゅうやられているが、これだってニール限定の技だ。「白い悪魔」や「天下の歌姫様」を犬呼ばわりして問題ないのは、ニールがおかんだからだ。普通は周囲からタコ殴りにされる。もちろん、拳骨も叱責もニール限定だし、それについては誰も止めない。
「もういい。おまえはさっさと横になれ。」
クスリなんて後回しで、先に横にしようとしたら、歌姫様は大笑いだ。イヤです、なんておっしゃって、大笑いしている。
「ママ、ママ、こんなに楽しいのは久しぶりですわ。」
作品名:こらぼでほすと 拉致6 作家名:篠義