sugar time
「急にどうしたの」
「ん…寒ぃから」
「俺湯たんぽじゃないよ~」
いい加減離してよ、と上目遣いに請うも、手放すつもりはないと表情で語られる。
「身体、べたべたして気持ち悪いんだけど」
「…もうちょっとだけ。こうしてたいんだよ」
何時になく素直な佐藤くんの言葉に、じんわりと胸が温かくなる。
ちょっと、可愛い。
「もう、しょうがないなぁ…今日は何だか甘えたさんだね」
ま、嬉しいんだけどさ。
応えるように佐藤くんの胸に顔を擦り付ける。
「でもね、そろそろお腹空いてきちゃった」
「後でいいだろ。もうちょっと我慢しろ」
「えー何それ、横暴」
それでも抵抗しないのは、やっぱり佐藤くんには敵わないから。
惚れた弱みとはよく言ったものだ。
佐藤くんの腕の中で、きゅんと心をときめかせた。
「じゃあ、起きたら俺の好きな物、作ってくれる?」
「あ?…しゃーねぇな。何が食いたいんだ」
「んとね、オムライス!」
「あー…卵切れてたな。後で買いに行くか」
「うん!あとね、ハンバーグも食べたい!」
「…お前、それいっぺんに食べるつもりか」
「まさか!ハンバーグは、晩ご飯でいいよ」
「おい、晩飯も俺に作らせる気か」
「えー…駄目?」
甘えた声で擦り寄ると、佐藤くんが息を呑むのが分かる。
実は、佐藤くんはこれに滅法弱い。
そうなれば、彼は俺の要求を呑むしか手が無いのだ。
それでなくとも、俺の大抵の我儘は聞いてくれる。
佐藤くんにも、惚れた弱みってものが一応はあるらしい。
「…荷物、持てよ」
「うん!もちろん!ありがとう佐藤くん、大好き!」
「ん。知ってる」
なんて、自意識過剰に振舞ってるけど、佐藤くんの心音が少しだけ早くなったのに気付かないわけがない。
照れ屋な佐藤くんらしい。
「じゃあ、もっかい寝よっか」
「ん…」
「ねぇ佐藤くん、起きたら、一緒にお風呂入ろ」
「おま…誘ってんのか」
「違うよ!普通に、そのまんまの意味だからね」
「…」
「それでー、その後お買い物行こ」
「ん」
「あ、もいっこ遠い方のスーパーに行きたい」
「…わかった、」
「で、ね、手、繋いで、帰りたいな」
あ、何か、眠くなってきちゃった。
意識が薄らとして、視界が霞む。
「…わかった、から、もう、寝ろ」
佐藤くんも眠そうに答える。
最後の方に呟いた言葉は小さくて、よく聞こえなかった。
ああ、駄目。もう、限界。
佐藤くんの心地良い鼓動を子守唄に、俺は夢の中に飛び込んだ。
それはそれは、幸せで甘酸っぱい夢だった。
作品名:sugar time 作家名:arit