こらぼでほすと 拉致7
「いや早ぇーだろ? まだ二ヶ月も経ってないぞ。」
ゆっくりと親猫が起き上がるので、黒子猫も身体をずらす。ふぁーと欠伸しつつ身体を反り返らせて親猫が、黒子猫のほうに顔を向ける。
「あんたが風邪を引いたというから看病するつもりで戻って来た。」
「・・・・キラだな・・・あいつ・・・」
クリスマス前に、プレゼントがどうとか言っていたから、そんな偽情報で刹那を引き戻したらしい。明日にはオーヴから戻ってくるから、拳骨だな、と、心の予定に書き込んだ。
「フェルトが居るなら、俺は必要ではなかったか? 」
「バカ言うな。おかえり、刹那。 おめでとう、今年もよろしくな? 」
みょーんと耳を垂れて鳴く黒子猫を、親猫はガバリと抱き締めた。キラの所業は悪いことだが、黒子猫の顔が見られたのは嬉しいことだ。ぎゅうぎゅうと抱き締めたら、黒子猫がぎゃあぎゃあと暴れる。いいお年玉貰ったなーとニールは大笑いだ。
そこへ歌姫様たちも入室してきた。虎が代表で出迎えて連れて来たことを説明すると、ニールも礼を言う。アイシャが黒子猫と桃色子猫を両方掴まえて、ぎゅうっとハグしているのはご愛嬌だ。全員が挨拶すると、こたつに収まる。
「どうでした? 旅行は。」
「これといって目新しいことはなかったな。ホテルでのんびりしてただけだ。」
「うちも似たようなものだな。」
「たまには夫婦水入らずもいいんじゃないんですかね。」
「まあな。」
「共働きだと、ずっと一緒のほうが珍しいんだけどなあ。・・・寂しくなかったかい? 俺の白猫ちゃん。」
「のんびりさせてもらいましたよ、俺も。てか、あんたの白猫じゃねぇーよっっ、鷹さん。」
「あら、じゃあ、私の白猫ちゃんかしらね。」
「・・・マリューさん・・・」
「うふふふ・・・だって、私、あなたの理想のタイプでしょ? ニール。」
「俺、人妻とかに燃えるタイプじゃないんです。だいたい、亭主が目の前に居るのに、んなこと言いますか? 」
「言うわよー。若いエキスは貴重だもの。せいぜい、搾り取らないとね。」
マリューのウインクに、ニールも詰まる。からかっているのは解っているが、何を言っても言い返されるのは目に見えている。
「いじめないで。」
「ニールには三蔵がいる。」
そして、子猫たちが両側からマリューを威嚇する。その反論にも、いろいろと言いたいことはあるのだが、ニールも子猫をぎゅっと抱き締めて苦笑するだけだ。旅行から帰ってラボのほうへ顔を出していたら、黒子猫が戻って来たんだ、と、それらしい理由もつけて、夫婦二組も微笑むだけだ。
「明日、初詣に出て別荘で凧揚げをやるらしいから、こっちに泊めてもらって一緒に行くことにした。」
「ああ、そんなこと言ってましたね。」
主に大明神様が、と、ニールも思い出した。今年は、みな、里帰りしているので初詣が遅れている。『吉祥富貴』の年少組は、初詣というイベントがある。例年なら二日に行くところだったが、これはこれでよかったと、ニールも内心でうんうんと頷いている。ラクスの体調不良があったから例年通りならキラにバレていたからだ。
「おまえさんも行くだろ? 」
「いや、俺、ちょっとトダカさんとこへ顔を出して来ようかな。」
「お父さんなら、明日、別荘へ来るぞ? 」
「そうなんですか? 」
「それに、おまえが別行動をすると、ちびたちも、そっちについて行くだろ? キラが暴れる。」
虎のご意見に、そうですね、と、ニールも頷く。子猫たちは、短い休暇なので、親猫から離れない。せっかく刹那とフェルトが戻っているのだから、一緒に遊びたいと、大明神様も予定を建てている。反故にすると、五月蝿いこと請け合いだ。
「そうですよ、ママ。フェルトに振袖を着せて初詣は譲れません。トダカさんは合流されますから、あちらに訪問される必要はありません。」
もちろん、ラクスも虎の意見に賛成だ。せっかくだから、フェルトに極東の正しい正月行事を体験させてあげたい。もちろん、ラクス自身は変装するから、振袖は着れないが、だからこそ余計に、フェルトを着飾らせて楽しむつもりだ。
「明日は、比較的大きな神社に集合して初詣をしてから露店を見学して別荘に参ります。ママは、どうされます? 」
「どうとは? 」
「洋装ですか? 和装ですか? 一応、お着物を用意しておりますけど。」
「着物? 」
「ええ、観光バスで特区の正月を楽しんでいるツアー客という設定なんです。ですから、皆、和装の準備をさせております。」
そうはいっても護衛する立場のものは、いつも通りの洋装のままだ。大勢でくり出すとなると、その設定で偽装するのが、てっとり早くて楽なので毎年、そんなことになっている。だから、着物を着た西洋人種が居てもおかしくはない。
「俺、外で着物は勘弁して欲しいな。歩くのが不安だよ、ラクス。」
店で着ているものは、草履という特殊な履物だから移動が大変なので普通の服装のほうが有り難い。
「確かにな。草履や下駄っていうのは、俺たちにとっても不自由だ。それに、ママは子猫たちのフォローに廻ってもらうほうがいいんじゃないか? オーナー。」
「そうですわね。マリューさんたちのほうもお願いしたいですから、洋装でよろしいですか? ママ。」
「マリューさんとアイシャさんは亭主がフォローすりゃいいんじゃないですかね? 鷹さん、虎さん? 」
「あははは・・・確かにそういうことなんだが、俺たちはオーナーの警護があるんでな。」
虎が、そう言うと、ニールも納得する。宇宙で一番高名な歌姫様が、市街地に出向くなんていうのは危険なことだからだ。正体がバレると、その場が混乱するし、何かあると問題になる。
「一応、変装はいたしますよ? フェルト、明日、私のことは、ミーアと呼んでくださいね? ラクスと呼んではいけませんよ? 」
ラクスには、過去、もどきさんが存在した。体型や声帯はそっくりだったが、顔だけは違っていたので、変装する場合、そのもどきさんの真似をするようにしている。メイクとメガネで、かなり印象を変えてしまうので、今までもバレたことはない。
「刹那には着物あるのか? ラクス。」
「はい、用意してございます。」
「それは男物なんだろうな? 」
「キラは、刹那には振袖と申してましたけど、一応、両方の用意はしております。」
「頼むから男物にしてやってくれ。」
店でのイベントなら目を瞑ろう。だが、他人の目があるところで、あれは可哀想だ。中性的な容姿のキラやレイなら、まあ、なんとか誤魔化せるだろうが、そろそろ背も伸びてきた刹那では、明らかにおかしくなっているし、できるだけ倒錯的なことはさせたくないのが、おかんの心情だ。
作品名:こらぼでほすと 拉致7 作家名:篠義