隣に聞いてみる
隣に聞いてみる
動かされたのは一つの言葉だった。
隣の人に「好きか?」と訊いてみる。だったような言葉だった気がする。詳しくは覚えてない。
今ちょっと女の子達の間で流行ってる占いメールっていうやつで、この間知り合った女性に教えてもらった。なんでもアドバイス的な一言を送ってくるらしいんだけど、それを実行すると願い事が叶うっていうジンクスがあるんだって言ってたっけ。
だから、興味本位で、本当にただの興味本位で登録してみた。
別に、来たからって実行するとか全然考えてなかった。けど、的確すぎるアドバイスの言葉にドキっとしたのは確かだ。
だから思わず読み返しもせずに携帯しまって飛び出してしまったのだけれど……。
フランスはふぅっと息を吐いて考えてることを中断した。目的の場所についたからだ。
着いた場所はよく見知った奴の家の玄関。
フランスはもう一度深く息を吐いた。決心したように一歩踏み出しインターホン……いや、このご世代に珍しい古い模様が綺麗に彫られている銀製のノックを手にすると、それをコツコツと鳴らして中にいるであろう人物を呼ぶ。
中からバタバタとした音が聞こえるから玄関から遠いところに居たのかとフランスが思った矢先、目の前の重々しい扉は開かれた。
飛び込んできたのは少し自分よりも茶色がかった金色の跳ねた髪と、歳の割には大きい緑の瞳……いや、驚いてるせいで更に大きく見えるのだけれども。何度か見え隠れする緑色に見入っていると、主張する太い眉毛が中央に寄って額に皺ができた。あ、いつもの顔だとフランスが口走る前に目の前に居る彼が口を開いた。
「なんだお前か。フランス。んだよ、いきなり来やがって……来るなら来るって言えよな。」
「うーん、ごめんねイギリス。……来ちゃまずかった?」
こっちにも準備ってもんがとかぶつくさ言うイギリスにとりあえず謝罪の言葉を投げるフランス。別に大した用でもないのに突如と予約もなしに来たのだから謝るのは仕方ないと自分を治めて、へらりとしただらしない表情をフランスは相手に向ける。
しかし、よくよく見るとイギリスの格好はエプロン着用で服には白い粉がたくさんついている。まさかのまさかで一瞬フランスは青ざめた。自分は時間を確認してこなかったのだからいざ仕方ない。
仕方ないがどうにかならないかと模索するフランスに訝しげにイギリスは視線を投げる。
「別に……な、なんだよ、入るなら入れよ。玄関先に突っ立ってられたら迷惑でしょうがねぇだろっ!」
「あ、うん。」
キっとフランスを睨みつけてから、イギリスは自分の身体を横にして中に入れと相手を促した。フランスは思わず躊躇したが、その間にイギリスがドアを閉めかねないので慌てて頷いて中へと足を踏み入れた。中は外よりも少し暖かくてほっとする。
「ったく、とりあえず客間で待ってろ。」
ぼーっと突っ立てるフランスの鼻っ先に薬指を突きつけて、不満げに言い捨てるとイギリスは踵を返してとっとと奥へと走っていった。パタパタという音が遠ざかるのを見送り、フランスはため息を吐いた。
ただいまの時間三時ちょっと前。しかもイギリスが走り去って行った先はフランスもよく知っている、彼の家のキッチンがある場所だ。執行猶予数分ってところかなぁ。としみじみ感じながら頭を押さえ、フランスは仕方なく言われた通りキッチンよりも手前に位置する客間へと向かった。
部屋は古めかしいと言っても過言でない作りだが、それなりに凝っている造りをしている。大きな窓越しには庭に咲く花が見え、壁には絵画が飾られている。一つしかない机へと歩み寄り、フランスはソファへと身を沈めた。午後の光が窓から射し込み暖かい。
「をい、フランス。お前、その……腹減ってないか?」
しばらく窓の外を眺めていると、イギリスがドアからひょっこりと顔を出し不安そうな少し期待を含んだ瞳でフランスを見、声をかけてきた。遠まわしな言い方に"来た"と内心冷や汗ものだが、フランスはまだ大丈夫と自分に言い聞かせて笑顔を作った。
「うん、俺はまだお昼食べたばっかだから大丈夫。紅茶だけお願いしていい?」
言葉を紡いでるうちに、だんだんとイギリスの表情が曇っていく。なんだか苛めてる気分になってきたフランスだが、ここで腹でも減ったなどと言うもんなら命に関わることこのうえない。でも、イギリスの残念そうな緑眼に思わず目を逸らしたくなる。
「そ、そうか。でも、ほらおやつの時間だし。持ってくれば……」
ぼそぼそと小さな声でまだ未練がましく言っているイギリスに、ちょっと身の危険を感じるフランス。ちょっと確認したいことがあっただけでむやみやたらに飛び出してしまったことを、今は心底後悔している。時間くらい確認しておけば良かった、もしくは自分がお菓子でも作って持って来ておけば良かったと後悔の言葉が次々にフランスの頭を過ぎる。
「イギリス、話があるんだけど。」
「わかった、ちょっと待ってろよ。仕事の話でもないんだろ?」
とりあえず回避したくて目的を達成しようと声をかけたら、なにやらぶつぶつと言っていたイギリスがあっと小さく声を出してまたキッチンへと戻って行ってしまった。そして、数分で戻ってきたと思ったら、案の定さらには黒い何かが乗って紅茶のセットとそれをフランスの前へと置いたのであった。
ギギギギっとなりそうなくらいゆっくりフランスは顔を自分の隣に座ったイギリスへと向けた。そこにはにっこりととっても良い笑顔を浮かべるイギリスが居て、でも目が笑っていない。食べなきゃ殺すぞという脅しが入っていることは、フランスも重々承知していることだ。
「……イギリス。これ、何?」
「スコーン。」
頬が明らかに引き攣り、黒い物体を指差し震える声で問うも、その答えはあっさりとした声によって返された。がくっと肩を落として思わず片手で額を押さえるフランス。そんな彼の様子に不服そうな顔をするイギリスだが、まだ期待を込めた目でフランスを見ている。
フランスは今一度ため息をついた。なんで自分はあんなメールを見てこんな時間に来てしまったのかと、後悔してももう遅い。食べて死ぬか、食べずに殴られて沈められるか、きっと二つに一つだ。そうは思っても頭の中では必死にどうしようかと考えてる。
「フランス……?なんだよ、食わねぇってーのかよ。」
どっから出しているのか、殺気を孕んだドスの聞いた声を出すイギリスにフランスの額から汗が流れた。いや、ここで流されてはいけない。そう思い立ち口を開いた。
「あのさ、イギリス。食べる前に聞きたいことあるんだけど。」
食べないと言ったが最後。絶対聞きたい返答は返ってこないよなぁ。と思いながらこのまま話がずれてしまえばいいのに。とちょっと期待を込めながらも、えらく真剣な面差しでフランスはイギリスを見た。
普段おちゃらけてるか、弛みきった顔をしているかのどちらかの相手が珍しく真剣な表情をしている。その現実にイギリスは目を瞬いて困惑の表情を浮かべた。あまり見慣れない表情だから戸惑っているのだ、そう自分に言い聞かせながらきゅっと眉の根本を引き締めて相手に視線を返す。
「なんだよ。」
動かされたのは一つの言葉だった。
隣の人に「好きか?」と訊いてみる。だったような言葉だった気がする。詳しくは覚えてない。
今ちょっと女の子達の間で流行ってる占いメールっていうやつで、この間知り合った女性に教えてもらった。なんでもアドバイス的な一言を送ってくるらしいんだけど、それを実行すると願い事が叶うっていうジンクスがあるんだって言ってたっけ。
だから、興味本位で、本当にただの興味本位で登録してみた。
別に、来たからって実行するとか全然考えてなかった。けど、的確すぎるアドバイスの言葉にドキっとしたのは確かだ。
だから思わず読み返しもせずに携帯しまって飛び出してしまったのだけれど……。
フランスはふぅっと息を吐いて考えてることを中断した。目的の場所についたからだ。
着いた場所はよく見知った奴の家の玄関。
フランスはもう一度深く息を吐いた。決心したように一歩踏み出しインターホン……いや、このご世代に珍しい古い模様が綺麗に彫られている銀製のノックを手にすると、それをコツコツと鳴らして中にいるであろう人物を呼ぶ。
中からバタバタとした音が聞こえるから玄関から遠いところに居たのかとフランスが思った矢先、目の前の重々しい扉は開かれた。
飛び込んできたのは少し自分よりも茶色がかった金色の跳ねた髪と、歳の割には大きい緑の瞳……いや、驚いてるせいで更に大きく見えるのだけれども。何度か見え隠れする緑色に見入っていると、主張する太い眉毛が中央に寄って額に皺ができた。あ、いつもの顔だとフランスが口走る前に目の前に居る彼が口を開いた。
「なんだお前か。フランス。んだよ、いきなり来やがって……来るなら来るって言えよな。」
「うーん、ごめんねイギリス。……来ちゃまずかった?」
こっちにも準備ってもんがとかぶつくさ言うイギリスにとりあえず謝罪の言葉を投げるフランス。別に大した用でもないのに突如と予約もなしに来たのだから謝るのは仕方ないと自分を治めて、へらりとしただらしない表情をフランスは相手に向ける。
しかし、よくよく見るとイギリスの格好はエプロン着用で服には白い粉がたくさんついている。まさかのまさかで一瞬フランスは青ざめた。自分は時間を確認してこなかったのだからいざ仕方ない。
仕方ないがどうにかならないかと模索するフランスに訝しげにイギリスは視線を投げる。
「別に……な、なんだよ、入るなら入れよ。玄関先に突っ立ってられたら迷惑でしょうがねぇだろっ!」
「あ、うん。」
キっとフランスを睨みつけてから、イギリスは自分の身体を横にして中に入れと相手を促した。フランスは思わず躊躇したが、その間にイギリスがドアを閉めかねないので慌てて頷いて中へと足を踏み入れた。中は外よりも少し暖かくてほっとする。
「ったく、とりあえず客間で待ってろ。」
ぼーっと突っ立てるフランスの鼻っ先に薬指を突きつけて、不満げに言い捨てるとイギリスは踵を返してとっとと奥へと走っていった。パタパタという音が遠ざかるのを見送り、フランスはため息を吐いた。
ただいまの時間三時ちょっと前。しかもイギリスが走り去って行った先はフランスもよく知っている、彼の家のキッチンがある場所だ。執行猶予数分ってところかなぁ。としみじみ感じながら頭を押さえ、フランスは仕方なく言われた通りキッチンよりも手前に位置する客間へと向かった。
部屋は古めかしいと言っても過言でない作りだが、それなりに凝っている造りをしている。大きな窓越しには庭に咲く花が見え、壁には絵画が飾られている。一つしかない机へと歩み寄り、フランスはソファへと身を沈めた。午後の光が窓から射し込み暖かい。
「をい、フランス。お前、その……腹減ってないか?」
しばらく窓の外を眺めていると、イギリスがドアからひょっこりと顔を出し不安そうな少し期待を含んだ瞳でフランスを見、声をかけてきた。遠まわしな言い方に"来た"と内心冷や汗ものだが、フランスはまだ大丈夫と自分に言い聞かせて笑顔を作った。
「うん、俺はまだお昼食べたばっかだから大丈夫。紅茶だけお願いしていい?」
言葉を紡いでるうちに、だんだんとイギリスの表情が曇っていく。なんだか苛めてる気分になってきたフランスだが、ここで腹でも減ったなどと言うもんなら命に関わることこのうえない。でも、イギリスの残念そうな緑眼に思わず目を逸らしたくなる。
「そ、そうか。でも、ほらおやつの時間だし。持ってくれば……」
ぼそぼそと小さな声でまだ未練がましく言っているイギリスに、ちょっと身の危険を感じるフランス。ちょっと確認したいことがあっただけでむやみやたらに飛び出してしまったことを、今は心底後悔している。時間くらい確認しておけば良かった、もしくは自分がお菓子でも作って持って来ておけば良かったと後悔の言葉が次々にフランスの頭を過ぎる。
「イギリス、話があるんだけど。」
「わかった、ちょっと待ってろよ。仕事の話でもないんだろ?」
とりあえず回避したくて目的を達成しようと声をかけたら、なにやらぶつぶつと言っていたイギリスがあっと小さく声を出してまたキッチンへと戻って行ってしまった。そして、数分で戻ってきたと思ったら、案の定さらには黒い何かが乗って紅茶のセットとそれをフランスの前へと置いたのであった。
ギギギギっとなりそうなくらいゆっくりフランスは顔を自分の隣に座ったイギリスへと向けた。そこにはにっこりととっても良い笑顔を浮かべるイギリスが居て、でも目が笑っていない。食べなきゃ殺すぞという脅しが入っていることは、フランスも重々承知していることだ。
「……イギリス。これ、何?」
「スコーン。」
頬が明らかに引き攣り、黒い物体を指差し震える声で問うも、その答えはあっさりとした声によって返された。がくっと肩を落として思わず片手で額を押さえるフランス。そんな彼の様子に不服そうな顔をするイギリスだが、まだ期待を込めた目でフランスを見ている。
フランスは今一度ため息をついた。なんで自分はあんなメールを見てこんな時間に来てしまったのかと、後悔してももう遅い。食べて死ぬか、食べずに殴られて沈められるか、きっと二つに一つだ。そうは思っても頭の中では必死にどうしようかと考えてる。
「フランス……?なんだよ、食わねぇってーのかよ。」
どっから出しているのか、殺気を孕んだドスの聞いた声を出すイギリスにフランスの額から汗が流れた。いや、ここで流されてはいけない。そう思い立ち口を開いた。
「あのさ、イギリス。食べる前に聞きたいことあるんだけど。」
食べないと言ったが最後。絶対聞きたい返答は返ってこないよなぁ。と思いながらこのまま話がずれてしまえばいいのに。とちょっと期待を込めながらも、えらく真剣な面差しでフランスはイギリスを見た。
普段おちゃらけてるか、弛みきった顔をしているかのどちらかの相手が珍しく真剣な表情をしている。その現実にイギリスは目を瞬いて困惑の表情を浮かべた。あまり見慣れない表情だから戸惑っているのだ、そう自分に言い聞かせながらきゅっと眉の根本を引き締めて相手に視線を返す。
「なんだよ。」