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月が眺める体育館の森の中

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 女子の演技もけっこう好きなんだと水沢は言った。
「器械体操やってるときさ、床で女子は音楽あるけど男子はなくて」
「ユカ?」
 ユカユカユカ。しばらく会ってないけど南高のユカちゃん元気かな。ユカリさんにもそろそろ会いたい。
「うん。床運動ってフロアマットの種目があるんだ。女子は音楽があるんだけど男子はなしなんだ。なんでなのかなーって思ってた。そういうもんだって言えばそれまでだけど」
「ふーん」
「新体操やるようになって、音楽を使うってことに関しては女子も男子も共有してるわけだけどさ、アプローチの仕方はやっぱ随分違うよなーって。使ってる手具も違うしそもそもルールが違うから当たり前かもしれないけど。おもしろい」
「ふーん」
 俺と水沢と悠太と金子の組は、航と日暮里と木山と火野の組と交代になって休憩を取った。汗をかいた体に柏木が作った特性ドリンクを飲むと、あ〜、超うめえ。染み入った。暑くなった体に対してドリンクは常温なんだけど、それが逆に咽喉の通り道を急激に冷やすことなくすんなり馴染んでいくようだった。水分補給の飲み物はフツーにスポドリのボトルと柏木特性ドリンクの2種類が用意されていて、柏木特性ドリンクは俺の「ツキモリ」って名前が書かれたボトルと隣で飲んでる「ミズサワ」や「カネコ」、それぞれ部員全員の中身が違うらしい。紅茶に溶かすハチミツの量を、どうのこうの、ニガリが、どうのこうの。覚えてねえけど。ふーんって聞きながらちょっとそっちの飲ませてよと航のに手を出そうとしたら「個々に調整してるんですよ」と柏木に言われた。よくわかんねえけど、柏木はそういうのにやたら薀蓄があるって知ってるから俺らはそのままを受け取っている。ボトルに書かれている名前は土屋の字だ。俺のには「ツキモリ」の横にスカルのシールのおまけ付き。土屋はかわいいヤツだ。
 悠太は土屋とノートを広げて何かにと話し込み始めて、金子は航たちの組にマットの外から指示を出し始めている。指示っつーか、こいつの黙っちゃられないクセっつーか。小うるせえ口ぶりなもんで「だぁーってろメガネッ!」と日暮里の口までヒクヒクしだしている。でも、火野は俺たちよりも更にスタートが遅かった木山にも目を配っていて、結局はまだまだ判らないことだらけの航と日暮里(それと俺もだけどさ)には誰か手を出した方が良いのは確かなので金子が手っつーか口だけど出すのに水沢も悠太も何も言わない。
 てか、こうやって体育館のフローリングにグタって座りながら見ていると、自分の休憩中にも黙っちゃられない性格しているとはいえ立ちながら身振り手振り口出ししている金子こいつなんだかんだすげーなとか思えてもくる。見上げた背中にマジモンの情熱が迸っています金子テンテー。うるせーけど。航と日暮里が「うるせーハゲッ」「ゲーハー!」ってんで「ハゲじゃないです坊主ですから毛がありますぅ〜!」とうるせー。
 で、俺は目線を女子部の練習に移していたわけ。
 隣で同じく座った水沢が俺と同じ方向へ「女子もいいよな」と言い出した。
 女子はさっきから団体のリボン演技を通し練習をしている。衣装はレオタードじゃなくて黒の練習着のままだけど、使用曲をかけて本番のように2分半フルの通しだ。
「それがあなたたちの力なの、足りないわよ。全然足りない。120%でやりなさい」
 祥子チャンの声が飛ぶ。それに「はいっ!」ってキーが高くて愛らしくも凛とした声がいくつも重なりながら答える。
 この種目は全員がリボンを5本使っているから5リボン、ファイブ・リボンっていうらしい。名前だけならナントカ戦隊っぽいな。長〜い布が舞っている。くるくるの螺旋を描いて。ぶわってでかい円を描いて。高く高く天井へ向かって放り投げられる構図は、ちょっと、ちょっとどころかすげぇ迫力がある。見ているこっちまで引っ張られて飛んでいくような。これでも投げの高さを押さえてるって話だ。つーのは、なんで体育館の使用を男子部から陣取ってるくせに更に平日の週に2度も大学の体育館にまで出向いているのかと思っていたら、この体育館の天井では高さが足りず全力を出すと手具がぶつかんだって。投げる力は抑えなきゃなんねえ。実際に時々リボンが天井に引っ掛かって練習が中断し、ばか長〜い棒を取り出し手具を器用に落として取っている姿が見られた。今は演技は音楽の進行と一緒に進んでいく。スペイン風? よくわかんねえけどスパニッシュっぽい情熱系で正直俺らの使用曲より勢いあって力強くてかっこいいんじゃねえかって思う。まあかっこよさだけを基準に選べるわけじゃなく構成とかを考慮して選曲されるんだってそれもわかっけどな。リボンの軌道がフロアに渦巻く一陣の風を目に見える形にして吹いていく。
 つまりチチとかケツか、と思っただろな以前の俺なら。新体操や器械体操の女子の演技を見るのが好きだと言う男に、ああチチ&ケツそれから可愛いスマイルねと思うよそりゃ。スポーツ観戦や純粋な鑑賞として好きだ言われて、ちょっと信じ切れないもんがある。ちょっと以前の俺だったなら。
 変わらずチチやケツが可愛いのは事実だが、それだけが演技へ曲線美ってもんやしなやかさを演出しているわけじゃねえんだと、今ならわかる。
 水沢がおもしろいと言った意味もなんとなくわかるような気がする。例えば他の演技を見て、俺ならどうやっかなって考える。俺と違う部分を見い出して面白さを感じたりする。すげえもんを見せ付けられれば、どうすりゃ俺もできっかなとか、俺にも出来るアタック方法なんかあっかなとか考えてみたりする。
 火野はやっぱり俺たちん中じゃレベルが段違だ。上手いやつの試技に触れるのは勉強になるだとか、そういうもんかよと思っていたがそういうもんなのだと体感として理解する。火野のぶれねえ軸や、軸がぶれねえから連続技のスムーズな流れや、流れがあるから残像を残すようにインパクトを刻む技、こんちくしょうと思うが盗みてえって思う。仲間になったことで今まで対極線から小生意気なクソ気取ったガキだとしか見れなかった動きももっと素直に目に映るようになったのも収穫なんだろう。ついでに超えられりゃ最高だが、そりゃジワジワいくしかねえんだな。新体操は面倒くさくてそういうもんだ。それって、やりゃあやれねえことねえんじゃんかって、新体操って、そういうもんじゃねえかって感じる。
「女子やっぱ綺麗だよな」
 女の子を差して言ってんじゃなく演技ってやっぱ綺麗だよなってことで、それに男子も負けないって水沢の内面がこもったような口ぶりだ。俺はリボンってのは6mの長さがあると知らなかった。6mて。あれだぜ、5本あるから30mの布がいま体育館の中で13m四方のフロアマットの上でなびいてる。
 水沢はチチとケツに興味はあるんかってふと思い浮かんだ。女の子という対象物に。演技もいいけど演技に対してじゃなく。