二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

月が眺める体育館の森の中

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

 我ながら、何も今疑問に浮かばなくてもいいこと思い付いちゃったもんだな。そう思ったから、口に出さねえ考えは柏木特性ドリンクと一緒に飲み込んだ。俺と水沢は、例えばグラビア雑誌を開きながらこの女の子どうよって尋ねてみることが出来る関係だと俺は思っている。水沢がどういう答えかは知らねえが答えてくれるんじゃねえかなって思える。
 俺、なんだか知んねえが、たぶんこいつと波長が合う。どんぴしゃ気が合うと思わねえし趣味が合うってわけでもねえんだけど、明確な理由があって人はツルむんじゃねえんだなって水沢が隣にいっと思う。
 ああ、チチとかケツとか思ってる場合じゃなくなってきたな、女子部。
 男子のマットはグリーンだが女子のピンク色の方角から、オーラが漂い始めてやがる。
「その不細工な顔やめなさい。その顔なんとか出来ないんならフロアに立つな」
 う〜わっ、すんげえセリフ。祥子チャンは眉のひとつもピクリとさせず女の子に向かって吐くにはえげつもない言葉を突きつけた。
 演技しているレギュラーの一人が泣き出しちゃったんだ。涙を拭いてやりてー。無理もない。2分半の団体演技の通しを、30秒インターバルを挟みながらも3回ぶっ続け。それを、ずっとやってる。ずっとって、まじでずっとだ。俺も横目だから正確なとこ何回目か数えてねえが、演技を連続3回ぶっ通し、先生のアドバイス貰って、ワンモア。演技を連続3回ぶっ通し、先生の叱咤を受けて、ワンモア。もっかい演技を連続3回ぶっ通し、先生んとこ集合し、ワンモ……何回やんだよ! 傍でそろそろ突っ込みたくなる回数だ。けどほんとは突っ込みとか言ってらんねえ練習だって傍から見てて俺にもわかる。……鬼だろこれ。
「女の子に面と向かって不細工て。祥子チャン、ひどすぎじゃね」
 いくらなんでもねえだろそれは。だからって口出しってわけにいかねえから隣の水沢にぼそりと呟いた。
「女子は表情も演技の一部ってされるから。祥子先生は妥協がないんだよ」
 厳しいよね、と水沢もぼそりと呟く。
 手具の落下もあるし振り付けのミスも出てる。けど、あの娘が泣き出したのはそれもあっけどどっちかってとキツさに涙腺が馬鹿になっちまった様子だ。
 今日は他の室内運動部も場所を併用していてバスケ部とか卓球部とかいんだけど、そいつらも目線がちらちら女子新体操部に引き寄せられてる。目が、いっちまう。それは厳しい練習内容にオオウ超こえーとか恐いもの見たさ的なもんだけじゃなく、女子部が作り上げる空気そのものに吸引力があった。オーラが体育館の中に広がって、支配していってるような感じだ。
 こいつら、強豪校だ。俺は汗水を垂らしたスポーツ熱血のことなんかとんと知ったこっちゃないけど、これだと肌を撫でていく。
「できる! 次は絶対できるよ!」
 圧迫された空気をぱっと弾けさせる光みたいな茉莉ちゃんの声だった。
 あの娘ちょっとすげえなって思う。この空気ん中で体力の極限状態の中で、笑顔でそんな言葉を言えるやつなんてそうそういねえだろ。滅多にいねえ。しかも茉莉ちゃんが本当にすげえところはまじで心から「できる」って思って言葉を発してる「次は絶対できる」って本気で信じてる表情だぞあれって。
 茉莉ちゃんて娘は、今時ないようなお嬢様っぽい女の子でああ礼儀正しく育てられたんだろうなあとか愛情深いんだろうなあなんてことを感じる娘だ。実際そうだろうな。真面目ですごく優しくて柔和で、おそらくそれが故に愚鈍ってポイントも押さえている。もちろん魅力的。ただ俺のガールズリストからすれば、ちょっと俺とは変な関係になっちまったら傷付け合う破目になりそうなタイプ。航がこの娘にべた惚れフォーリンラブだっつーことを抜かしても、頭の中にボーダーラインを引いて俺は茉莉ちゃんを捉えているんだけど、俺は彼女を知るうち誰かに似てんなと思ってた。方向性はまったく相容れないが、本質的な一部分が。航だ。
 航が男でセーフだな。じゃなきゃツルめなかった。航がどんなやつかと問われたならただの馬鹿だよって言っときゃ事足りるけど、ザンネンながら俺は女の子をそういう扱いにできない。女は女としか見れない。航も女は女としてしか見ることができねえ男だけど(ちなみに木山もそうだろな)、俺と航が違うのはそのままで幸せにしてやることが可能なんじゃねえかなってとこだ。航は恋心だだ漏れすぎてもはや面白いとしか言いようがねえ恋を茉莉ちゃんに展開させてるけど、これまたすごいことに茉莉ちゃんの方では少しも気付いてないって事実に面白さは拍車かかってどう転ぼうが生暖かい目で見守ろうと俺は思っている。
「もう一回やろう」
 自分たちで自ら音楽を要求する。茉莉ちゃんには妙な華がある。この強豪校の新体操部に颯爽と転校してきてレギュラーを陣取り笑顔で居座っているような女の子だ。強い華だ。
 3分間一瞬の気も抜くことなくフルで体を動かし続けるのって、キツい。まじキツいんだ。女子は少し短くて2分半だけど、だからってどうしたと思うよ。女子の演技の場合そこに笑顔まで要求されて、どうやって顔筋コントロールしてんのか謎だ。女の子は、笑っていた方がいい。女の子の笑顔は宝もんみてえなもんだ。けど、つらいときこそ笑顔とか何とか、そういうどっかて聞いたような標語?よくわかんねえけど、それがどんなにまじですげえのかってのが彼女たち見てて思うよ。ええと、アレだ、こんな言葉使ったことねえけど、尊い、と思う。彼女たちの笑顔は作られた笑顔だ。すべてのパーツを組み合わせるため研磨された作品だ。
 涙を流していたあの娘はタオルで顔を拭いそのタオルはほっぽりだして、レギュラーメンバーは演技スタートの定位置に着く前に円陣を組んだ。言葉を2言3言交わしているが何を話しているのかは円の中の人間にしか判らない。そのうち、意を決したみたいな表情になって、お互いに頷き合う。息をすうっと吸い込む。
「……カラコォー!」
 俺たち男子部は肩を組むけど女子部は手を繋ぎ合って円を作ってる。ぎゅっと強く強く握り合って、ひとつらなりの鎖のように強靭な円を作る。メンバーが発した気合に、フロアの外部にいた補欠もレギュラー以外の女子部員も全員が応えた。
「ファッイトーッ!!」
 でかい波みてえだ。
 こんなのが隣から押し寄せてくる光景だったなら、人は奮い立つか萎縮するかのどっちかになるしかないだろう。男子新体操部はこの雰囲気を隣り合わせに部活をやってんだ、俺の知らないこれまでの時間も。
 俺の視界の端で、航が倒立をミスってこけた。重心がずれて崩れちまったんだ。顔から落ちて頬骨の辺りをマットに擦りつけた。航は自分がこけたマット上をギラついた目で睨みつけ、口を引き絞り目を光らせたまま顔を上げ、すぐさま立ち上がった。
 これまでの男子新体操部がどうだったかなんて知らねえよ。