ひきこもり
正臣が引き篭もりになった。
理由は分からない。
「でも、何も食べないわけにいかないよね」
帝人は今日もスーパーの惣菜を抱えて正臣の家に行く。
ゴロゴロと布団の中にいるかテレビを見るかそんな正臣。
トイレに行くのも風呂に入るのも面倒だという。重症だ。
身体のどこも悪くないというのに部屋から出たがらない。
外で何か悲しいことでもあったのだろうか。
帝人は何も聞かないが友人として放っておくわけにはいかない。
「正臣、ご飯食べよう?」
あたためた惣菜を床に並べて布団から出てこない正臣に呼びかける。
元気に外でナンパをしている方が正臣らしくていい。
(すぐには無理でもいつかはさ)
悲しくなる気持ちを抑えて帝人は正臣に「ご飯だよ」と呼ぶ。
反応のない正臣にエビチリを箸で掴んで持っていく。
布団の中で正臣は丸くなった。
食べたくないのだろうか。
「うるさい」
正臣の言葉とは思えない。本当にどうしたのだろう。
掛け布団を引きはがして見れば携帯電話を片手に震えている。
本当に正臣らしくない。
「ご飯の時にケータイはダメって言ったのは正臣じゃないか」
「や、め」
帝人は正臣の手から携帯電話を奪う。
少し考えて「やっぱり臨也さんに相談した方がよかった?」と聞いてみる。
ばつが悪いのか正臣の視線はそれる。
「そんなに臨也さんが嫌い?」
「……その内臓まみれのだんご虫」
「エビチリだよぉ」
「そう見えるんだ」
力なく笑う正臣。ひきこもりになってから好き嫌いが激しくなった。
(本当は惣菜じゃなくって手作りだって気付いたのかな)
わざわざスーパーのパックに詰めなおしたのだ。
十割ぐらいの確率で正臣は見破る。伊達に幼馴染ではない。
「おはぎは」
「泥だんご」
「チョコレートは」
「カレーのルー」
「正臣のバカっ!! 折角差しいれ持って来たのにわがままばっかり」
「狂ってる」
正臣がなにかから逃げ出すように布団を被る。
腹が立ったので帝人は正臣の足につけた鎖を引っ張る。
部屋の外まで歩かない正臣は痩せ細って弱い。
「じゃあ、正臣がご飯作ってよ」
疲れたように「分かった」と正臣は口にするので帝人は鎖を外用に切り変える。
正臣の部屋の中だけしか長さがない鎖と玄関までに届かない鎖、引き篭もりの正臣には二つの鎖があった。
(まったく僕が鎖を入れ替えないと正臣はろくに動けないんだから)
冷蔵庫の中を見て正臣は適当に食材を出して雑に炒めた。
愛が足りない。わざわざ食材を補充している帝人に対する労わりがない。
「美味しくない」
「あ、っそ」
二人して俯く。泣きそうになった。