ひきこもり
「好きだから、そうだよ。好きだから。だから、僕は!!!!」
鏡のように帝人を演じる正臣に気付かされる。
自分がこんなにおかしくなってしまった理由。
もう親友ではいられない。
泣きながら帝人はどうすれば良かったのかと絶叫する。
「嫌、いやぁ。正臣を返して」
携帯電話を投げ捨てて叫ぶ。
自分のフリをする正臣など欲しくない。
求めていないのだ。
「正臣、正臣、まさおみ」
「反省したか?」
「うぅぅ……うん」
「なら、許してやる」
「うん?」
顔をあげれば正臣が「仕方がない奴だな」と笑っていた。
帝人の真似らしい困ったような表情ではない。
いつもの自身満々に「ナンパ行くぞ」と軽口を叩きそうな正臣の顔。
「まさおみ、正臣?」
「おう、どっからどう見ても紀田正臣だな! お前は竜ヶ峰帝人だ」
「まさおみ、いつからまさおみ?」
「俺は生まれた時から俺だ」
「まさおみ?」
「学校はちょっと風邪で休みってことになってる。杏里は心配してるから、頭下げてノート見せてもらえ」
「まさおみ」
「ダラーズと縁が切れないっていうなら、勝手にしろ。アレは個人がどうの出来るものじゃない」
優しく正臣に頭を撫でられながら何を言われているのか帝人は理解出来ない。
「俺には帝人の役は重くて出来なかった。……お前はパスワード何にしたんだよ」
「重くてってマシンが?」
「ちげー。いや、まあ……いいんだ。黄巾賊とダラーズの抗争、黄巾賊がなければ抗争も起きないだろ」
「やめたの?」
「元々、俺の黄巾賊は昔に終わってたんだ」
「でも」
「そうだな、ごめん。悪かった。謝るから許せ」
帝人が何かをいうよりも先に正臣が巻くし立てる。
「全部俺のせいだ。気が済んだか?」
「全然悪いと思ってなさそう……」
「帝人の方こそ」
正臣の顔が近寄ってきて帝人は思わず叩く。
気にせず抱きしめられて息が止まる。
冗談ではない。
優しく正臣が背中を撫でてくれてやっと嗚咽と一緒に呼吸は再開できた。
「帝人が戻れないっていうなら付き合ってやるよ」
「何言ってるの?」
「好きだって、そう言っただろ。お前が壊れちまっても」
「うそ?」
「さっきの告白は滅茶苦茶頑張ったぞ。帝人の口調とか違和感バリバリなのをグッとこらえてだなぁ」
「うそ?」
「こんな場面でそんなクールな発言は――」
「ごめん、ごめんね」
正臣に背中を撫でられながら帝人は泣いた。
「気にすんな。俺とお前の仲だろ」
「どんな仲?」
「恋仲」
久しぶりに聞く正臣の言葉に帝人は「正臣って本当ばか」と笑えた。