ルック・湊(ルク主)
逃げている間、ルックは考えていた。
ヒトは損得なしでこうやって誰かを信じ命をかけてでも助けあえるものなのだ、と。ああ、これがいわゆる愛というやつだったな・・・。
「おっと、ここまでだ。」
そこに追いついたラウドと兵士。
「お前らも、何度も俺の手をわずらわせおって。今度こそとっ捕まえて、全員処刑場送りだ。」
すると、シンが立ちはだかった。
「ご安心を、ここは通しません、お嬢様。」
「いけません!死んでは・・・」
「我が忠誠は、グリンヒルの市長のもとにあるのでもなく、ワイズメル家のもとにあるのでもなく、ただ、あなたのもとにのみあります。テレーズ様。」
「そんな事を言って・・・」
その時、フリックが黙ってテレーズに充て身をくらわせた。そして倒れるテレーズを抱え、シンに言う。
「お嬢さんの事はまかせときな。この剣の名にかけて、守ってみせる!行くぞ、湊!」
剣の名前・・・そういえば亡くした女性の名、オデッサだったな、ふとルックはそう思った。
ようやく出口に近いところまでやってくる。
その時、向こうから白い軍服の少年、ジョウイが現れた。
「湊・・・ナナミ・・・」
「ジョウイ・・・」
「湊、これは友人としての忠告だ。同盟軍のリーダーなんかやめてどこかに逃げるんだ。」
「・・・それはどういう意味だい?」
ルックが聞いた。
「勝敗の行方はすでに定まっている。君らのやっている事は、ただいたずらに戦いを長引かせるだけだ。」
「ルカ・ブライトに従え、と言う事かい?」
「ハイランドも、都市同盟もルカの好きにはさせない・・・・・・。ねえ湊、君が戦う必要は、ない。」
「僕は・・・逃げるわけにはいかない・・・。だめだ、よ・・・ジョウイ・・・。」
湊は絞り出すように言った。そんな湊を切なそうに黙ってジョウイは見つめる。
「・・・。・・・湊・・・。・・・そろそろ、逃げたほうがいい。」
「追っ手か、逃げるぞ。」
フリックが言った。ナナミがジョウイにすがる。
「ジョウイ・・・どうしたの、嘘でしょ!!信じないもん!!ジョウイが、あのジョウイがルカ・ブライトの手先になるなんて!そんなの嘘だもん!!!」
「っ行こう・・・ナナミ。」
湊が表情を殺して、ナナミを引っ張って行く。
「ヤダ、ヤダ、ヤダ、こんなのヤダ!!!!!せっかく、ジョウイに会えたのに!!!」
ずっと背を向けて立っているジョウイをしり目に皆は去っていく。その間ずっとナナミの悲痛な声だけが聞こえていた。
ようやく抜け出せ、城にもどった時、ルックはそういえば、と思い出した。
たしか前に熊とこの青いのから聞いたっけ。
湊がとても大切な友達とはぐれた、と。
大切な、・・・友達。
先ほど湊が“ジョウイ”と名前をその口から発した時。
ルックは心臓が張り裂けるかと思った。
なんて大切なものを扱うかのようにその名前を言うんだ。
そしてなんて苦しそうに、切なそうにしているんだ。
ああ・・・。
今日はたくさんの、さまざまなヒトの“愛”というものを目の当たりにした。
どれも確かに愛おしく大切な気持ちなのであろう、そしてそれらの愛は前戦争でも何度も見た。ルックもそういうものがある、と理解していた。
だが。
これは違う。これはそんなものでは言いつくせない。
・・・ずっと分からなかったものが、ようやく分かった。
僕は。
そして意識がフェイドアウトしだした。・・・寝不足のせいだ・・・多分・・・。
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ