ルック・湊(ルク主)
当惑(ルック)
朝起きたら2重の意味で頭が痛かった。
「・・・さい、あく・・・。」
とりあえず飲みすぎた。それは分かっている。
少しイライラしていた事と、シーナの巧みな勧め方もあり、ずいぶん飲んでしまったようである。
とりあえず、二日酔いによる頭痛とイライラに効くだろう、とリンデンのハーブティーを作り、飲む。
そうして飲み終え、しばらくそのままじっと座っていたのち、ため息をついて頭を伏せた。額を机につける。
「・・・。」
酔っていたとはいえ、別に泥酔していた訳でもなく、あの時も、多少頭はふわふわとはしていたが、我を忘れていた訳ではない。
ただ、自分の頬にそっと添えられた湊の手・・・。
あまりに無防備な湊に、イラついたのもあった。だが、何より、自分を止められなかった、というのが大きい。
今でも唇には感触が残っている。
軽く、そっと触れるだけのようなものではあったが。
湊は、初めてだったであろうか・・・?口づけをした後の、茫然とした湊を思い出す。
自分は、もともとはキスに特別な感情が伴うと思った事はなかった。
自分が作られた後、まだ何も分かってないような頃に、あそこにいた人間に何度かされた事がある。ただ器官と器官をくっつける行為に、なんの意味があるのだろう、と思っていた。
だが昨日は違った。
あの時、自分は間違いなく、湊に触れたい、と思っていた。
軽く触れた後、このままではもっと自分をとめられなくなると思い、湊を追い出すと結界まで張って完全に締め出した。
だがあの時の湊の茫然とした顔・・・。
怒っているだろうか?初めてだったであろうか?ショックを受けているであろうか?
そうやってしばらくグルグルと考え込んでいたが、おもむろに立ち上がり、外に出た。
とりあえず、謝ろう、そう思い、湊を探す。紋章の気配をたどれば早いのであろうが、まだ少し頭がはっきりしていないので地道に、ここかと思われる場所を見て回る。
こういう時に限ってなかなか会えない。いつもならムダに向こうからやって来るのに・・・。そう思ってハッとした。
・・・まさか、怒っているから避けられている、と、か・・・?
おもわずフラっとそばの壁にぶつかり、近くを通りかかった熊が、うぉう!?とびっくりしていた。
「な、なんだぁお前?大丈夫なのか?」
「・・・ああ、いたって平気だとも。ショックなんてうけてないとも。」
「・・・は?」
「いや・・・。そうだ、く・・・ビクトール。湊を見なかったかい?」
「てめえ、今なんか言いかけたな?まあ、いい。あいつなら珍しく、レストランでナナミとお茶してたぜ?シュウにとっつかまった後にナナミにとっつかまったらしい。まあこれからまた忙しくなるだろうから、ちょうど良かったんじゃ・・・て人の話は最後まで聞けよ!」
熊がだらだらと話しているのがもどかしく、どうも、と呟いた後でレストランに向かう。ちなみに瞬間移動する事も忘れて走っていた。
レストランに着くと、少し息を整えてから中に入った。
湊はすぐに目についた。そう、あの子はどこにいても、すぐに目につく・・・。
なんだか楽しげなのを見て、ホッとする。良かった、傷つけたりは、していないようだ。
だが、しばらくすると湊はぼんやりとしだした。どうしたのだろう。なんだか心配になり近づいて声をかけた。
「どうかしたわけ?」
ああ、まず謝ろうと思っていたのに、口から出たのは相変わらずの口調。少し自己嫌悪になりそうだったが、それよりも湊が心配だった。
「あ、ルックくんもお茶?どうもしないけど、なんか湊が疲れたか何かで・・・」
「湊が?具合、悪いとか?大丈・・・」
そう声をかけながら湊に触れようと手を伸ばしかけると、おもむろに湊が椅子をはねのけて立ち上がった。
「「湊?」」
「な、なんでもないっ。なんでもないからっ。」
そうとだけ言うと、湊は慌てたように駆けだしていってしまった。ナナミも唖然としている。
そ・・・そんなに嫌われてしまったの、か・・・?伸ばした手が切なかった。
「ど、どうしちゃったんだろ、湊・・・。」
ナナミが心配げにつぶやく。とりあえず心配なのは一緒だ。それに謝りたいし、今の事も聞きたい。
「僕が後を追うよ。」
ナナミにそうとだけ言うと、気持ちを集中させた。
頭がはっきりしない、とか言ってられない。集中させて、湊が持つ紋章の気配をさぐった。
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ