ルック・湊(ルク主)
当惑(湊)
「最近ここも人、増えてきたよねっ。」
湊が嬉しそうにナナミに言った。そうね、とナナミもニッコリする。
「・・・でも・・・」
ふ、とナナミの顔に影が差したような気がした。
「どうしたの、ナナミ?」
「・・・ん・・・?えっとぉ・・・。・・・いいや、なんでもないっ。」
ナナミは何かを言い淀んだかと思えば、なんでもない、とニッコリし、手に持っていたジュースを飲んだ。
「え、でも・・・?」
「あはは、なんでもないってば。それよりさー、湊。イケメンさん、増えたわよねー。あんた、誰がいい?」
「ああ、ほんと皆かっこいいよね、て、誰って、何?」
湊もお茶を飲んでから首をかしげて聞き直した。2人は久しぶりにゆっくりとテラスで午後のお茶を飲んでいるところだった。
「え?何って、あんたのお婿さん候補よっ!」
「・・・、・・・・・・。・・・っはぁ!?ちょ、ナナミ、いくらなんでも僕が男だって覚えてるよね!?」
「えーそんなの知ってるわよ、昔はよくお風呂、一緒に入ったじゃない。」
何を当たり前な、といった顔つきでナナミが言った。
「いやいやいや、そんな当然、みたいな顔されても。だったら今の言い方がおかしいの、分かるよね?」
「なんで?あはは、だってあんた、可愛いもの。」
「そんなドヤ顔されても困るから。可愛かろうがそうでなかろうが、僕は男なの。お婿さんとか、おかしいだろ。だいたい相手にも悪いよ。」
呆れたように湊が言うと、ナナミが、それこそ何いってんの!?と息巻いた。
「あんたモテモテみたいよー?確かにその辺の女の子より可愛いもの。けっこうね、あんたの事が好きだって人、多いみたい。」
「は・・・?・・・ナナミ、そんな事、いったい誰から聞いたの・・・?」
「え?だってメグちゃんとかミリィちゃんとかニナちゃんとかが言ってたよ?で、誰とくっつくのかなーって言って盛り上がってた。」
・・・やめて欲しい。なんなの?その話題?
湊は空いた口がふさがらなかった。
人から好かれるのはいいことだけど・・・同性からそんな対象で見られていて、諸手をあげて喜べるわけがない。ただでさえ、たまにある妙なナンパとか、鬱陶しいのに。それに女の子からそんな風に見られていたなんて・・・。なんかショックだ。
「私はねー、だれがいいかなぁ。やっぱり最近仲間になってくれたカミューさんとかマイクロトフさんなんてお勧めよねっ。おっさん(ビクトール)とかフリックさんはなんとなく保護者のイメージがあるし・・・。シュウさんは、なんか、いや。ずるがしこそうなんだもん。ザムザさんはかっこいいけど性格がアレだし・・・。シーナさんはダメよ、浮気ばっかしそう。クライブさんも捨てがたいけどなー。フッチくんやチャコくんは年下だしねー。ルックくんは・・・」
やめて欲しいと思いつつ、何気にルックの名前が出ると、なぜか心臓がはねた。何気に唇をさわる。
「んー冷たくされそうだしね。」
「そ、そんな事ないよ!」
「?え?」
「ルックは冷たくなんかない。すごくいい人だよ。とても優しいもん。」
湊の剣幕におされてナナミは最初ポカン、としていた。が。
「・・・へえ。湊ったら、ルックくんが好きなの?」
「は?違・・・いや、ルックの事は確かに好きだけどもっ、そうゆうんじゃなくて・・・」
「そういうんじゃなくて?」
「・・・そういうんじゃなくて・・・」
湊はぼんやりと考えた。
そういうんじゃなくて、何だろう。そうしばらく考えて、気づいた。
大切な友達、だろ?なぜそれがすぐ出てこない?
大切な友達。ほんとうにルックの事は大切だった。そっけないながらもとても優しいルック。
最初から、仲良くしたいとは思っていた。同世代ぽいし、あんな毒舌だけれどもなぜかとてもいい人そうに思えた。もちろん、思っていたとおり、とても優しい人だった。
トゥーリバーではある意味、湊を救ってくれた人。
それからもいつだってお願いすればついてきてくれて。・・・仕事だから、とは言われたけれども・・・。
グリンヒルでは楽しかったな。ルックと一緒に学生生活送ることが仮であっても出来て嬉しかった。
それにずっと心の支えだった。
怖い時も。・・・ジョウイの事で胸が張り裂けそうだった時も・・・ルックがいてくれるだけで自分はなんとか立っていられた。
それが分かってその後も、きっとウザがられる勢いでまとわりついてしまったけど、それでもルックは呆れながらもいつだって自分に向き合ってくれる。
昨日の、あれは・・・多分、酔っていたからだろうな。結局、ルックが言いたい事が分からなかったけれども、とりあえず酔っていたからだろう、と結論づけていた。・・・ファーストキスが酔ってされるキスって微妙だけど・・・。
けれども嫌じゃなかった。男同士なのに。まあもともと、恋愛に関しての男女の偏見はないとは思ってはいるけれども。・・・とりあえず、嫌じゃなかった・・・。
そういうのっ、て・・・友達、でいいの、かな?
「湊?どうしたの?ぼんやりして?」
ナナミの声が聞こえて、湊はハッとした。
「あ、ごめ・・・」
「?大丈夫?疲れてるのかなぁ?」
「いや、大丈夫だか・・・」
その時あまりになじんだ気配がした。
「どうかしたわけ?」
「あ、ルックくんもお茶?どうもしないけど、なんか湊が疲れたか何かで・・・」
「湊が?具合、悪いとか?大丈・・・」
お茶を飲みに来たらしいルックがこちらに気づいてやってきていた。
何かあったの?といった感じで聞いてきて、ナナミの言った事を聞くと、かすかに、ほんとうにかすかだけども、気遣わしげに自分の方を見て聞いてきた。そう、少しだけ目を分からないくらいにひそめて・・・。
そう、そんな表情はもしかしたら自分だけが知っているのかも・・・。そして手をこちらに伸ばして・・・。
その瞬間、湊はガタン、と椅子を跳ねのけて立ちあがった。
「「湊?」」
「な、なんでもないっ、なんでもないからっ。」
そうとだけ言うと、湊は慌てたように駆けだしていってしまった。ルックとナナミは唖然とそれを見送っていた。
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ