ルック・湊(ルク主)
「えっ??」
いきなり目の前に現れた男はあっという間にゾンビを切り倒していく。
「二刀いらずのゲオルグ・・・。」
唖然としていたナナミにルックが呟いた。ナナミが知っている者を見るかのようなルックと詩遠を見る。
「ふ、2人とも、お知り合い??」
「うん。ゲオルグ・プライム。俺の父の同僚だった元赤月帝国六将軍の一人だよ。だが俺が戦った解放戦争の前に既に姿を消していた。ルックはなぜ知っている?まぁ有名な人だったけど。」
「・・・昔108星の一人だった男だ。そして、多分、今回も同じ・・・。」
「・・・詩遠・マクドール、か?まあ、いい、とりあえず、移動するぞ。」
ゲオルグという名の男がこちらを見て言った。
皆で先を進み、安全と思われるところまでやってきた。
「ナナミ・・・お疲れ。とりあえず湊、おろしなよ。」
ルックが珍しく、いたわるように声をかけてナナミがハッとする。そうしてそっと湊を置き、そこでようやく限界だったのかその場にへたり込んだ。
「ナナミちゃん、大丈夫?」
「う、うん。なんだか、急にホッとして・・・。でも・・・」
でも湊はまだ気を失ったままだった。
「・・・ナナミ。僕は今から気を送るから。変な事をする訳じゃないから。先に言っておく。」
「へ?ああ?うん?」
ナナミが首を傾げている前で、ルックは湊の上にかがんで手を握り、口づけをした。その様子をナナミは真っ赤な顔で見ていた。
ルックがようやく湊から口を離してもナナミは赤い顔のままポカン、と2人を見ていた。
「・・・何。」
「え!?あ、う、ううん!何でもない!」
「う・・・」
不意に湊の声がして、ルックも詩遠もナナミも一斉に心配げに湊を見た。見ると先ほどまで死人のように青白かった頬に少しだけ赤みが差している。
そして皆が見守る前で、湊がうっすらと目を開けた。
「良かった!気がついた。良かった、良かった、良かったよぉ。」
ナナミが起き上がった湊に抱きついた。ルックも詩遠もとりあえずホッとしている。
「あのね、あそこのおじさんが助けてくれたんだよ。お礼を言わなくちゃね。」
そしてナナミが指した先には茶色いマントをはおった男が背を向けて立っていた。湊が近づこうとすると、その男が振り向いた。
「気がついたか、少年。・・・礼なら気にせんでいいぞ。」
「でも。ありがとうございます。」
「礼はいいと言っているものを、律儀なヤツだな。ところでどこへ行くつもりだ?湊。」
「ど、どうして湊の名前を知っているのよ。」
湊はてっきり誰かが言ったものと思ってスルーしていたが、ナナミが驚いたように、少し警戒してゲオルグに聞いた。
「どうしてって・・・お前らが大声で名前、呼んでたからな。」
「あ・・・。」
「同盟軍のリーダーが、こんなところをウロついてていいのか?」
「僕は・・・もう、リーダーじゃないです・・・。」
湊は少し俯き気味で言った。
「ほう。だったら早く逃げた方がいい。ここは、また戦場になるぞ。」
「あなたは止めないんですか?」
「なぜ止める必要がある?少年、お前が決めた事だ。俺には関係ないさ。・・・どうした、その顔は。」
湊のなにか痛むような表情を見て、ゲオルグは少し黙った。その湊の横でナナミもなんともいえない表情をする。ルックと詩遠はそんな3人を黙って見ていた。
「・・・俺は、多くの場所で多くのものを見た。全てを捧げようと思った女性もいたし、かけがえのない相手と思った友もいた。真義と約束、その為に生きてきた。」
湊がピクリ、と身体を動かした。
真義と約束の、為・・・。
「しかしなぁ、少年。時が過ぎれば、すべては雲のように流れ去る。今はこれ以上ないと思えてもそれに捕らわれる必要はないさ。義務感におされるのではなく、少年、お前自身の想う道をたどるべきだろうな。」
「っ。」
「さぁ、そろそろ行った方がいいぞ。こんなところで、長話をしているヒマはあるまい?」
ゲオルグにそう言われて、湊はハッとした。もう一度、ありがとうございました、と礼を言ってからそこから立ち去った。
ルックは少しゲオルグを見た後で湊について行く。詩遠もゲオルグに黙礼してから後に続いた。ゲオルグはそんな湊らを黙って見ていた。
その後はゾンビも出る事もなく、無事山道を抜け反対側にある『竜口の村』に着いた。
ナナミがホッとしたのもつかの間、湊がまた、今度はいきなり倒れてしまった。
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ