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葎@ついったー
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die vier Jahreszeite 008

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ガキの頃からそう繰り返してきたせいか,思いはひとつところに留まらず漫然と散ってしまう。

俺は胡坐をかいた足首を掴むと,片方の尻を浮かせポケットから父親が書いたという手紙を引っ張り出した。
右上がりのクセの強い字。
慌てて書いたのか,もとの性格がそうなのか,ところどころ間違えた箇所は塗りつぶされてそのまま続けられてる。
Ludwig,と綴られたチビの名前。
ルートヴィッヒ,と口に出して読んでみる。
俺の,弟。

そういえば齢を聞いてなかったな,とそのときになって気づいた。
いくつなんだろう。
しっかりはしているようだけど,やっぱり小学校に通う齢には見えない。
第一小学校に通っているのならば流石に相応の荷物があるだろう。
その辺も後日送られてくるのか,と頭を巡らせてみたが,その可能性は低い気がした。

小学校に上がる前ってことは,あの頃の俺よりも小せえのか。
繋がれていた両親の手が離れていった日。
一人になった日。
迷子にならないように,と改めて繋がれた女の手は,馴染みのない温度とやわらかさで,俺は一人になったんだ,ということを痛感した。
あのときの俺よりも,今のチビは――。

不意に苦しさを感じた。
憤りや苛立ちが一度に噴出すような心地がして,俺は奥歯をギリ,と噛み締めると左手にぶら下げていた缶をぐしゃりと握り潰した。
ひしゃげた缶を煽り,残っていたビールを一息に飲み干す。
空になった缶に灰を落としながら頭に浮かぶままにあれこれ思いを巡らせる。
きちんと頭が回っていない自覚はあった。
酷く疲れていた。
缶ビール一本程度じゃ酔いはしない。
が,いろんなことが億劫だった。

「…あー,ちくしょう」

呻くように呟いてのろのろと立ち上がる。
台所へ行ってうどんのゴミが入った袋にビールの缶を押し込む。
水道の蛇口に直截口をつけて口を漱ぎ,パーカの袖で拭う。
それからチビが眠る寝室へ向かった。

半分空けとけよ,と云ったせいか,チビは布団に入った場所からちっとも動かずに眠っているようだった。
俺は眠る小さな身体が目を覚まさないようにそっと布団を捲ると空いたスペースに身体を押し込んだ。
いつもならぞくりと震えるほど冷たい布団が,今日は笑いたくなるほど温かい。
なんなんだよこれ,と手の甲で目元を覆い,低く喉を鳴らした。

「ん…」

小さな声。
しまった,起こしたか,と慌てて様子を窺うと,どうやら寝ぼけただけらしく,ころりと寝返りを打った小さな身体が胸元にぴたりと寄り添った。

「…おい,寝返り打てねぇだろこれじゃ」

低く囁くように云ったが,押し退けるのも大人げない。
仕方なしに俺はくうくう寝入る小さな顔を見下ろした。
そしてその頬に,濡れた跡があるのに今更ながら気づいた。

ひとりで泣いたのか。
布団に入ってから?
何で――って当たり前か。
わけもわからず初対面の,しかもどう見てもガラ悪い俺みたいなやつに一人で対峙して,明日からどうなるかもまったくわからない。
そりゃ不安で泣けもするだろう。

腹の底がざわつく。
何で気づけなかった,という自責の念,とそんなの俺が知ったことか,という苛立ち。
じりじりと境界を押し退けあっている二つの思いは,あっけなく自責の念が競り勝った。

「…悪かったな」

濡れた頬を指先で拭いながら低く詫びる。
額に張り付く髪を掻き上げてやり,なんとなくそこに鼻先をすりつけた。

できるのか,という不安はある。
でも,できるかできないかじゃなくて,結局はやるかやらないかの問題だ。
いつも厄介ごとを前にしたとき,俺はそうやって腹を括ってきた。
ならば,今回だって同じだろう?

明日起きたら,とりあえず伯母に連絡を入れないと。
それから風呂入って,必要なもんを買いに行く。
寝巻きと着替えくらいは用意しておかねえと。
あと食器?

ああ,それより。
俺は台所に置いたままの小さな箱を思い出して小さく喉を鳴らした。
朝飯代わりにあのケーキ食わしてやろう。
箱から出てきたケーキ見たら,きっとコイツも笑うはず。

俺は込み上げた欠伸をそのまま漏らすと,胸元にぴたりと寄せられる小さな頭を抱えるようにして目を瞑った。