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はじまる一週間(土曜日)

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 それでも今自分の手の中にある髪の毛のくすぐったい柔らかさや、肩に優しく掛かる体重の暖かさを感じて静雄は頬を緩ませる。

(これが俺のものになってくれてる)
 そう思うだけでぐっとなる程に、この少年が優しくて柔らかい存在である事が静雄を更に喜ばせてくれる。
 ともすれば泣きそうなその感情や存在は、静雄がずっと欲していて手に入れられなかったものだった。今まで静雄が付き合っていたと思っていた女達ですらくれなかったものを、帝人は簡単に静雄の手の中に落としてくれる。

「お前って子供なんだよな」
 眠った事で高くなった体温を感じながら、静雄は何度も帝人の頭を撫でる。テレビではいつの間にかドラマの再放送は終了し、バラエティが始まっていた。
 びゅうびゅうと風が強く窓を叩くのを感じながら、静雄はひたすら頭を撫で続ける。そうしていれば、帝人の体温が少しでも自分を暖めてくれるような気がしたのだ。




 その後帝人の言葉通り、台風はちゃくちゃくと東京に近付いているようだった。強くなる雨風と、起きた少年の赤い顔を見て静雄は「帰るな」と口にする。
 静雄の頭には昨日見た、台風が来れば吹き飛ばされそうな帝人の家が、正に今日の風で吹き飛ばされている姿が映ったのだ。
 あくまでそれは静雄の想像でしかなかったが、驚く帝人をそのままに、静雄は必要な夕飯の食材を聞いて玄関を出る。
 慌てて追いかけてくる帝人を無理矢理自室に押し込めて外に出て、強い雨風に打たれながら煙草に火を点けた。ジッと音を立てて燃える先端と白く伸びる煙を見ながらエレベーターのボタンを押す。
(高校のジャージってあいつにでかいか)と思う静雄の足取りは軽い。
 強い雨に普段ならば濡れそぼって怒りを露わにするところだが、静雄はドンキから家に戻るまでついぞ怒る事はなかった。

(あいつが待ってくれてる)
 そう思うだけで軽くなる足取りや心に、静雄が疑問を浮かばせる事はもうない。
 帝人は付き合っている相手で、自分を好いてくれている。
 この手に落ちてきてくれるならば、一生大事にするだけだと他人からすれば思い決意を胸にして、帝人の待つマンションへと急いだ。
 月が出る事のない台風が近付く夜の池袋で、傘もささずに歩く静雄を咎める者はいない。




(転がっていく土曜日)