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さくまさんの

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主張したい悪魔



早瀬田大学。
その食堂は学生たちでにぎわっていた。
昼食の時間はとおに過ぎてはいるが、時間つぶしにちょどいい場所だからである。
各テーブルでは学生たちが勉強の話や勉強にはまったく関係のない話をしている。
佐隈りん子も同じだ。
同級生のユミとマキの三人で、一つのテーブルを独占して話していた。
話の中心はユミで、彼氏について喋っている。
ふと。
「あ」
佐隈の向かいに座っているユミがなにか思い出したような顔になった。
「……そうだ、さくまさん、今、つき合っている人いないんだよね?」
「うん」
あっさりと佐隈はうなずく。
ユミはほっとしたような表情になった。
「じゃあ、今夜、時間あいてない?」
「え」
「彼氏が彼氏の男友達から合コンしてくれって頼まれて、それで、今夜、合コンすることになったんだけどね。さっき、私が参加してほしいってお願いしてた女の子がひとり、急用で参加できなくなったって、連絡入ったのよ。だから、さくまさん、お願いしてもいい?」
「マキちゃんは、どう?」
佐隈は自分に来た話を、ユミの隣に座っているマキに振ってみた。
すると、マキは得意げに笑う。
「マキは今日よりもっとまえに頼まれてぇ、しょーがないから、参加してあげることにしたんだよー」
「そういうわけだから、さくまさん」
マキはすでに女性側の数に入っているということらしい。
ユミが佐隈のほうに少し身を乗りだしてくる。
「急な話で申し訳ないんだけど、今夜の合コンに参加してもらえない?」
「いい人を見つけて恋しなきゃダメだよー。だから、合コン、一緒に行こうよー」
ふたりから勧誘されて、佐隈は戸惑う。
そこに。
「お断りします」
背後から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
佐隈は驚き、振り返る。
うしろにベルゼブブ優一が立っていた。
人間に見えるよう変装している。
ベルゼブブは自分のほうに向けられている佐隈の顔をチラッと見たが、その眼をすぐにユミとマキのほうにやった。
「さくまさんはこのあと私と一緒に過ごすので、合コンとやらには行けません」
きっぱりと告げた。
ユミとマキはぼうぜんとしている。
ふたりは、ベルゼブブが突然やってきたことだけではなく、ベルゼブブの王子様的な美形っぷりに驚いているのだろう。
食堂内にいる学生たち、特に女子学生たちが、チラチラとベルゼブブのほうを見ている。
そうしたことに慣れているらしいベルゼブブは平然としていて、その眼を佐隈に向けた。
「さくまさん、行きましょう」
「ベルゼブブさん、どうしてここに?」
「……依頼人の所に行くには、事務所からより大学からのほうが近いと言ったのは、あなたでしょう?」
佐隈にだけ聞こえるぐらいの小声でベルゼブブが説明した。
芥辺の代わりに佐隈が引き受けた仕事があり、その依頼人との約束の場所に行く予定があるのだが、少々アヤシイ依頼人なので男連れで行くことにしたのだった。
一緒に行く相手として、ベルゼブブが選ばれた。芥辺は他の仕事があり、アザゼル篤史は信用がなかった。
「ああ、そうでした」
佐隈は納得する。
芥辺探偵事務所に行ってから依頼人の所に行くつもりだったが、大学から直接行ったほうが楽だ。
約束の時間までまだ余裕はあるが、こうしてベルゼブブが迎えにきてくれたのだから、時間まで、ふたりで適当に時間をつぶせばいい。
佐隈はユミとマキのほうを見る。
「じゃあ、私は行くね」
そうふたりに言うと、カバンを持ってイスからたちあがった。
「う、うん……」
「うん……」
ユミもマキも、まだ、ぼうぜんとしている。
そんなふたりを残して、佐隈はベルゼブブと一緒にテーブルから離れていった。

「さくまさん、つき合ってる人いないって言ってたよね」
ユミはマキに話しかけた。
その眼は去っていく佐隈の背中に向けられている。
佐隈の隣にはベルゼブブがいる。
その端正で華やかな外見は、まわりの者たちの視線を集めている。
視線を浴びながら、堂々としている。
佐隈のそばを歩いている。
時折、顔を近づけて内緒話をしたりと、ふたりは親密な様子だ。
というよりも、ベルゼブブがそれをアピールしているようにも見える。
「うん……」
マキがベルゼブブに見とれている様子で返事をした。
その隣の席で、ユミは言う。
「でも、いるじゃない、すごいのが」





作品名:さくまさんの 作家名:hujio