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【腐向け】ひとりとふたり

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ホッと胸を撫で下ろすと、ずるいだの何だの言っていた那月の声を最後に通話が途切れた。
通話時間を表示する携帯を投げ捨て、俺は適当な上着を羽織った。






エントランス前では、マネージャーと、その背にぐったり覆いかぶさっている那月がいた。マンションの前にタクシーがつけてたから、どうやらそれで帰ってきたらしい。
慌てて駆け寄ってドアを開けると、俺に気付いた那月が、満面の笑みで衝突してきた。

「しょおちゃあん」

大男に押し潰され、ぐぇ、と妙な声を上げながら寸でのところでその身体を支えきる。もう少しウエイトが小さかったら一緒に倒れていただろう。
様子のおかしい那月に、外にいたマネージャーはすっと片手を上げて詫びのポーズを作った。
何の謝罪であるかなんて言わずともわかる。何よりこの鼻先を掠めるにおいがそれを物語っていた。

「那月…お前酔ってるだろ」
「えへへ、よってませんよぉ」
「こんなずぶ濡れで!傘どうしたんだよ傘!」
「あれぇ?」
「荷物はあるんだな?あぁもういいから、早く部屋行くぞ!」

全く言うことを聞かない那月を引き摺るように引っ張っていく。相当雨に打たれたらしく、那月は濡れ鼠になっていた。
成人しているのだからアルコールは飲んでもいいのだが、いつもはこんなことにはならないはずだ。
飲酒に関して、那月は普通なのだと思う。弱いわけでもないが、とりわけ強くもない。俺は飲めないから加減がよくわからないが、それでも那月なりにわきまえて飲んでいたはずだ。
一応アイドルとしての自覚があるのだろう。打ち上げなどで酒が出ても、ほろ酔い程度で済んでいたのに。
なんとか部屋まで連れてきた俺は取りあえず濡れた服全部を脱ぐように言うと、那月のチェストから代えの洋服を持ってきた。

「那月、シャワー浴びてこれ着てろ」

脱衣所でぼんやりしていた那月にそう声をかけるのだが、どうにも反応が鈍い。
一応上着やらは脱いでいたのだが、あろうことかそのまま俺が持ってきた服を着始めてちょっと待てと制止をかける。

「シャワー浴びろって、身体冷えてんだろ?」
「しょおちゃん」
「なんだよ?」

シャツの袖を通しただけのみっともない格好のまま、那月が覆いかぶさってくる。冷たい肌が触れ思わず肩が跳ねた。

「な、つき?」

那月の息が耳にかかってこそばゆい。恐る恐る名前を呼べば、小さな声で一言、気持ち悪いと言ってきた。

「そっ…おまっそれ!それをはやく!ちょっと待て、まだ吐くなよ!?あれこういうときどうすんだっけ!?ちょ、那月!せめてこっち!」

うっと喉を鳴らす那月を無理やりバスルームに押し込める。その後はまぁ、散々な目に合った。






「38度5分」

表示されたデジタルの数字を読み上げて、俺はわざとらしく重い息を吐いてやる。
布団に埋もれていた那月は、真っ赤にした頬のまま薄く瞳を開いた。

「ごめんね、翔ちゃん」

酷く掠れてしまった声で謝られ、俺はもう一度溜息をついた。
昨日散々酔い潰れた那月は、いろいろあって濡れた髪もそのままにベッドに倒れこむ羽目になった。
ほんとはシャワーでも浴びてあったかくしてからの方が良かったのだが、そんな余裕が全くなかった。
そんなわけで、今目の前にいる大男は見事に風邪を引いたのである。
身体が資本のアイドルなのに、なんてことはこいつもよくわかってるはずなので、あえて黙っておく。
今もブランケットの中で繰り返される消え入りそうな謝罪に、俺はもういいと口を開いた。

「おかゆ作ってあるから、食えそーなら温めて食えよ。あとスポーツドリンクと薬。錠剤が1回1錠で、こっちのカプセルは2錠、毎食後にちゃんと飲め」

ペットボトルと薬、それからピッチャーとコップも枕元に置いてやる。那月は相変わらずごめんなさいごめんなさいと呟いていた。
俺はそれに、細く長い息を吐く。

「俺、もう行くから。なんかあったら携帯に、」
「えっ待ってください」

踵を返しかけたとき、あろうことか那月が起き上がって俺の手首を掴んできた。
人肌にしては熱すぎる温度が伝わってきて、思わずびくっとしてしまう。

「…何してんだよ」

呆れ声を返して、起きた那月を寝かせようとしたのだが。

「どこ行くんですか?」

合わさった視線の先、思いのほか切なそうな瞳に反応が遅れた。ぎゅっと、手を握る那月の指に力が篭る。

「どこって…仕事だろ」
「だめです」

は、と俺は言葉を失った。

「いっちゃだめです」

那月は、うわ言のように繰り返す。黙ったままの俺に、なお口を開いた。

「ずっと、ここにいて」

縋るような視線と告げられた言葉に、俺はぐっと唇を噛み締めた。
あぁもうと、問答無用で手を振り切って、逆に指を突きつけてやる。

「俺だってなぁ!こんな状態のお前をひとり残して心配だっつーの!おかゆ爆発させたりしねーかなとか、薬ちゃんの飲めんのかなとか!だけどそういうわけにもいかないだろ!?俺たちはコンビなんだから、お前が動けない分は、俺ががんばってやらねーと!」

一息に言い切った俺は、ぜぇぜぇと肩を震わせながら、那月、と低く呼びかける。

「俺たちの職業はなんだ。言ってみろ」

あ、と少しだけ瞳を見開いて、那月はしゅんと顔を項垂れた。

「アイドル…です」
「そうだ。俺たちには、待ってるファンがいるんだよ。俺はあいつらを裏切るようなことはしたくない。お前もそうだろ?だから、な?」

そう言うと那月はますます俯いて、そう、ですね、と小さく呟いた。シーツに落ちた大きな手が、ギュッと皺を作った。
俺はその手に自分の手を重ねて、力を込めた。

「できるだけ早く、帰ってくっから」
「…はい」

消え入りそうな答えだった。
大丈夫かと不安になりながらも、そろそろ時間が押している。最後に、あったかくして寝ろと付け加えて俺は寝室のドアに手をかけた。
そのときだった。

「チビ」

低く鋭い声が飛んでくる。
驚いて振り返れば、眼鏡の奥から刺すような視線と目が合う。
熱に浮かされて少々潤んではいるものの、それは限りなく那月とは違っていた。

「砂月!?」

思わずベッドに駆け寄った。砂月が出てくるのは、昨日の朝以来だ。それからずっと見ていない。
砂月は鬱陶しそうに眼鏡を取ると、俺を見上げてきた。辛いのか、苦しそうに息をしている。

「お前今まで何してたんだよ!いつもなら、那月がああなる前に止めてただろ!?」
「耳元で…キャンキャン騒ぐな。頭に響く」

顔を顰められ、うっと言葉に詰まる。わりぃと、小さく詫びた。

「…今回のことは、正直、俺にもお手上げだ」
「え、」

苦しそうな呼気を挟んで、砂月がそう告げる。
砂月は、那月をいつも守ろうとしている。那月が無茶しないように、悲しまないように、ただそれだけで動いている。
その砂月が根を上げるなど、一体どういうことなのか。聞き返せば、さっと手で追い払われた。

「これについては、後で話す。お前は仕事だろ?さっさと行け」
「でも…砂月、お前」
「早く行け。那月なら俺が面倒見ておく。安心しろ」

同じ身体だ。自分だって相当辛いだろうに、砂月は手を上げて俺の頭を一度だけぽんと叩いた。