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スパーク新刊サンプル【米普・R18】

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「何やってるんだい君は」
濡れたように光る緑の芝生は本当なら立ち入り禁止で、立て看板だってしっかり差さって
いるのに、アメリカが呆れ顔で声をかけた相手は意に介した様子もない。ふうと溜め息を
ついて、今度は名前を呼ぶ。
「プロイセン」
それでも立ち入り禁止の芝生に堂々と寝ころび、陽に透ける銀の髪を風に遊ばせるプロイセ
ンは身動きもしない。目を瞑ってはいても、きっと眠ってはいないのだ。それが分かるか
らこそアメリカは放置して立ち去ることもできず遊歩道で腕を組んで見下ろすしかない。
「そこは立ち入り禁止なんだぞ、プロイセン」
答えを期待もせずに続けるが、予想通りプロイセンの口は開かない。気まぐれな人だという
ことは身に染みて知っているアメリカが早々に二度目の溜め息をついたのと、パタパタと近
づく軽い足音がぴたりと止まるのは同時だった。
「何やってるですか」
ぐい、とアメリカのオレンジのパーカーの袖を引いたシーランドは水色のペナントを揺らして、
かのアメリカの兄貴分の面影をはっきり残す緑の瞳をくりりと丸くした。アメリカがちょいと
芝生を指させば、あ、と小さく声を上げて躊躇いもなく手入れをされた芝生へ踏み込んだ。
「プロイセンじゃないですか!」
シーランドが叫びながら飛びついて、プロイセンのスーツの胸に乗り上げればさすがに狸
寝入りを決め込む気も削がれたのかプロイセンはぱちりと目を開けて肘をつき、上半身を
少しばかり起こした。
「よお、久しぶりだなシーランド」
元気だったかと、跳ねたおかげでずれた水兵帽をとり、くすんだ金の髪をくしゃりと撫でた。
シーランドは嬉しそうにきゃっと笑い、もちろんですよと弾んだ声で答える。それはそうだ
ろうと一人置いていかれた状態のアメリカは思う。何しろ珍しくイギリスのお許しを得て仕事
がらみの渡米に同行した上、現在行われている、この子供にとっては退屈以外の何ものでも
ないイギリス出席の会議の間は、代休でしっかりオフをもぎ取ったアメリカが子守りを丸ご
と引き受けたのだ。一日中、正規の国である知りあいに構ってもらえることなどあまりない
であろう海上の小国は、それはそれは上機嫌に、朝早くからアメリカを引っ張りまわしてい
たのだった。そしてシーランドが、険のありそうな外見に反して存外誰に対しても―それは
相手が子供であればあるほど―世話を焼きたがるプロイセンに、当然のように懐いているのは
周知の事実だった。
「何してるですか。プロイセンもイギリスと同じ会議ですか?」
「イギリス? あいつも来てんのか」
「シー君はイギリスと来たですよ。でも今日は仕事ばかりだから、代わりに……」
プロイセンの上に乗ったままシーランドは遊歩道に目を向ける。アメリカは二人分の視線を
受けて、やれやれと不本意ながら伸びかけた雑草を踏んだ。
「なるほどな。俺は別件だぜ、新型旅客機のことでちょっとな」
「君がくるなんて聞いてなかったんだぞ」
休日の昼間にくつろぐ親子に見えなくもない二人の傍までくると、しゃがみ込んでわずかに
不満げな響きを声にのせた。自分の影で覆われたプロイセンの眼は相変わらず赤紫の虹彩が
勝っていて、こんな日にサングラスもなしに外を出歩くなんて、と思わずアメリカは小言を
口にしそうになるのをぐっと堪えた。
「一言連絡くれたらよかったのに」
「今回は強行軍なんだよ。昨夜遅くに着いて、明日の昼には発つ予定なんだ。
 急だったからお前の都合がつかないだろうと思ったんだって」
「こんなところで昼寝をしてるのに?」