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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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SOUVENIR II 郷愁の星

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 「父親に刃を向けようとする気持ちは、私には理解できない。それでも、彼女なりに覚悟を決めて来たのだろう、案の定、な」
 ジュリアスは神殿への帰り道、ランディにぽつりと言った。
 「ジュリアス様、もしかして、待ってたんですか」
 「まあな。というのも、私が父親に当て身を喰らわせた後、あの娘にずいぶん殴られた」リディアは小柄だ。殴ったといってもせいぜい胸のあたりをぽかぽかと叩くぐらいが関の山だったことだろう。
 「感謝する、感謝するけど許せない、とあの娘は言った」
 「……星は救われたけれど、神官の父親の存在価値を潰した……ということですね」
 ジュリアスは頷いた。
 「思い詰めた表情に良くない予感がしたので、寝室あたりで張っていたら本当に来たわけだ」
 だが、それで本当に父親を殺したりするのだろうか。ランディの疑問を払拭するようにジュリアスが言った。
 「だから、本当に、彼女が神官殿の部屋に来たときにはすでに神官殿は亡くなっていたのだ。これは医者も証明している。いわば、心臓麻痺みたいなものだったと。とても静かな死に顔だった」
 「ジュリアス様」
 立ち止まって、ランディは進もうとするジュリアスを見た。ジュリアスも止まった。
 「この星に俺の力は無いに等しい。これでは星が機能しない」
 彼の力の希薄な星で危険なことは、様々な憶測ばかり出回り、誰も真実を見極めようとしない傾向に陥ることにある。それが溜まると、やがて鬱屈した民たちは『暴動』という引き金を引く。
 さっきの酒場にしてもまさにそうだった。人々は神官のリディアに対して不信感を持っているのに、それを表には出さず、内に溜めている。だが、不満はいつまでも溜めておけるものではない。
 ジュリアスはため息をついた。
 「……やはりそうか……」
 「おわかりだったんですよね、ジュリアス様は」
 「……私なりにだがな。もちろん私に神官のような力はない。ただたんに経験が」
 そのとき、彼らの後ろから誰かが走ってきた。酒場にいた若い兵士だった。
 「執務官殿、たいへんです!」
 「どうした」
 「【黒い土地】に、よその星の者が侵入したらしいのです!」
 ジュリアスは目をカッと見開いた。
 「……何だと? 見張りはどうした!」
 「そ、それがみな眠ってしまっていて……」
 そこまで彼が言ったとき、ランディはハッとした。
 (まさか)