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飛空都市の八月
飛空都市の八月
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SOUVENIR II 郷愁の星

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 「すぐに行く。私の鎧を持って来い」
 「はい!」兵士は走って神殿のほうへ向かった。それを見送るとジュリアスはランディのほうを見た。
 「……確か、クラヴィスが来ると言っていたな、ランディ」
 返事するのももどかしく、ランディが頷いた。何ということだろう、ランディのほうに人々を集中させておいて、首座の守護聖のほうが隠密裡にやってくるとは!
 「……その様子だと、そなたは何も知らされていないようだな」
 苦笑してジュリアスが言った。図星だ。ランディは悔しい思いをして唇を噛んだ。
 「何か考えがあってのことだろう、恨むな。それより急がねば。私は見届けなければならない」
 「見届ける……何を?」ランディの問いにジュリアスは笑って言った。
 「私の願いの成就だ。まさか、クラヴィス自らやってくるとは思わなかったが。……それに、よく場所がわかったものだ。よその星の者には間違って入ったりすることのないよう出入口の場所は教えないことになっているのだが」
 【黒い土地】の入口で、ジュリアスは自分の鎧が来るのを待った。
 「さすがに、私も鎧なしではあの土地には行くことはできぬ」
 あの鎧は、黒い土地の瘴気を防ぐ役割も担っている。星半分を無くしたからといって、科学文明自体を拒絶しているわけではない、とジュリアスは言った。最低限の進化と研究は続けられている。ただ、人々は恐れている。以前のように文明が発達しすぎてまた今度は残り半分も失うのではないかと。剣の世界のまま留まっているのはそのあらわれらしい。
 「ランディ様まで行くのかよ」
 声をかけられて振り返ると、さっきの酒場でジュリアスからまともに拳を受けたせいで、まだ鼻に血止めの詰めものをしたエノルムがいた。聞けば彼は眠らされた兵士の代わりに守衛をかって出たらしい。
 「なら、鎧をつけていけよ。それと、中に入っちまった酔狂なヨソ者の分も」
 豪快な言動のわりによく気がつくんだな、とランディは感心した。
 「ありがとう、エノルム。でも、たぶん、俺は大丈夫です」明るく笑ってランディが返した。「それに、中にいる方も」
 エノルムが不思議そうな顔をした。
 「何か、話によると黒くて長い髪の男だったらしいが……知り合いかよ、ランディ様」
 やはり……。ランディはもう知らされなかった故の不機嫌を通り越して笑ってしまった。
 そこへ、ジュリアスの鎧を持って、若い兵士の代わりにリディアがやってきた。彼女ももちろん鎧姿のままだった。どう見ても一緒に行こうとしているようだ。
 「そなたはここに残れ、神官殿」
 神官殿と言われ、リディアは露骨に嫌そうな顔をした。
 「鎧なら身につけています。私はこの星の神官なのですよ、きちんと見に行くことはあなたが教え……」
 「夜の瘴気は男でもきつい。そなたには無理だ。ここで待っているがよい」
 鎧を取り上げると、ジュリアスは手際よくそれを身につけた。
 「……いつもそう言って置いていくんだわ」低い声でリディアが言った。「私が鎧をつけているのは何のためだと」
 だがジュリアスは後を振り返らなかった。
 「何故彼女を連れていかないんですか」
 ジュリアスと共に進みながら、リディアの代わりにランディが詰問調に尋ねた。リディアの言うことはもっともだと思ったからだ。
 「だから、瘴気にあてられるからと言ったではないか」ランディのほうを見もせず通路を歩きながらジュリアスは答えた。
 「じゃあ何故、彼女に鎧を贈ったりしたんです? 彼女の成人の時に」
 ジュリアスは、今度はランディのほうを見た。
 「……リディアから聞いたのか?」
 ランディは頷いた。
 「お母さんをあの【黒い土地】の瘴気のせいで亡くしたことも聞きました。でも彼女自体は【黒い土地】は必要だと言ってたんですよ? それなのに何故」
 「……彼女に鎧を贈ったことは、私の考えが先代の神官殿と意見を異にすることを表しただけだ」
 矛盾している。
 「ならば、それを主張するジュリアス様が彼女を連れていかないなんておかしいじゃないですか。……彼女がいつも鎧を身につけているのって、ジュリアス様と一緒に【黒い土地】へ行きたいからじゃないんですか?」
 それほど一緒にいたいということなのだ、とランディは言いながら思った。
 「……勘弁してくれ、ランディ」
 とうとう、深くため息をついてジュリアスが言った。
 「私がおかしなことを言っているのは、私が一番よくわかっている。【黒い土地】に行っている民たちに対して失礼なことをしているのも自覚している。彼らに行かせて神官を行かせないようにしているのだからな。だが、どう取られても、私はリディアを彼女の母親のような目に遭わせたくないのだ」
 吐き捨てるようにジュリアスは言った。
 「だから、なるべく私自身が行くようにしている。【黒い土地】へ行く者たちに対してのせめてもの罪滅ぼしの気持ちもある。自己満足も甚だしいが……この答えで満足か」
 「……すみませんでした」
 ランディは立ち止まると深く頭を下げた。ジュリアスは少し驚いたようだった。
 「問い詰めるようなことをしてしまって……。でも、そうリディアに言ってあげれば彼女も」
 「知らせる必要はない」
 厳しく遮ってジュリアスは再び前に進んだ。ランディはその背中を見つめた。この人はきっと昔からこうだったのだ。冷たい態度の裏で思いもよらぬほどの優しさを隠している。それを上手く表現することができない……それが近しい者であればあるほど。
 守護聖時代にはそれがあまりよくわからなかった。ランディは少し残念に思った。