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飛空都市の八月
飛空都市の八月
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SOUVENIR II 郷愁の星

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 「ここです」
 案内されて入った修練場では、兵士たちだけでなく、先程の鍬や鋤を抱えた男たちもいた。聞けば彼らも兵士なのだということだった。大変な賑やかさだ。皆、熱心に剣を交え、鍛錬に励んでいるようだった。あの老人たちや神殿の中とは打って変わってこちらはやはり人々の表情が生き生きとしていた。
 ランディは修練場の隅にいるジュリアスのほうをチラリと見た。聖地とは異なる時の流れの中、年を取ったのはわかる。それにしても鎧姿の彼など守護聖時代には全く見たことがなかった。剣を携えて立っている様子は、もうこの星の他の者たちと何ら違和感がない。鎧の中の体つきまではわからなかったが、それでも変わらず美しい横顔を見せていた。
 彼がそこまで見ている間にも、ジュリアスのまわりには人が入れ替わり立ち替わり訪れる。毅然とした文官風の者もいれば、くしゃくしゃな頭のままペンを耳に挟み込み、図面のようなものを見せている学者のような者もいる。そうかと思えば、巨大な腹を抱えたいかにも腕自慢な風の男がジュリアスのほうに来て大声で話しかけて笑っている。ジュリアスも少し笑う。聖地では笑顔を滅多に見せなかったのに。ランディは驚きと少々の羨望の気持ちをもってその様子を見ていた。
 その男がランディの方へのそのそと近づいて行った。ジュリアスはまた別の者に掴まっていた。
 「守護聖様、強いんだってな。ジュリアスから聞いたよ」
 いきなりそう言われてランディは驚いた。
 「あの執務官殿はこの星の人間じゃないんだ。外から来たから、俺たちよりはあんた方のことはよくわかってるみたいだ」
 そう言うと男はランディの腰かけている椅子の側の床の上にドシンと座った。
 「よろしく、俺はエノルム。後で手合わせしてくれよ、あんた、さっきから皆と同じように動きたくってうずうずしてるんじゃないか?」ニヤリと笑ってその男−−エノルムが言った。
 「エノルム! 守護聖様に何て口の利き方をするの! 第一、失礼でしょう? あなたと手合わせだなんて!」
 甲高い声でリディアが注意した。
 「“戦いの巫女”殿、ランディ様はそんなことないと思うぜ。あんたはさっさと神殿に帰りな」
 口は悪いものの、先程の老人たちよりは遥かに親しい様子だな、とランディは思ってエノルムの言い様を聞いていた。それにしても……。
 「“戦いの巫女”?」
 「おうよ」エノルムが返した。「この神官さんは、幼いころからあのジュリアスに叩き込まれて相当な剣の使い手なのさ。家で縫い物やってるよりここでチャンバラやって育ったって口だ。強いんだぜ」
 「よけいなことは言わないでちょうだい!」赤くなってリディアが叫ぶ。
 「へえ、そうなのか、君、ジュ……執務官さんに剣を教わったのか。じゃあ、後で手合わせをお願いするよ!」
 ジュリアスと剣の稽古をしたという共通点に、思わずランディは嬉しくなって言った。リディアは驚いたようだった。
 「ラ、ランディ様?」
 「おい、俺が先だぞ、守護聖様。あのジュリアスが強いって言うんなら、あんた、相当やるんだろうからな」エノルムが笑って言った。
 「さっきもそう言ってたけれど……本当にジュリアスがそう言ったの? エノルム」
 「おう。俺を負かしたジュリアスが言うんだから間違いない」
 胸を張ってエノルムが言った。
 ジュリアス様がこんな大男と……? ランディには想像できなかった。
 「負けて、何、自慢そうに言ってるの……そう……でもジュリアスがそう言うなら、ランディ様ってお強いんですね」リディアがまた笑った。やはり笑うほうがいい、とランディは妙なことを思いながらも、ジュリアスの買いかぶりに赤面した。
 「そ、そんなことはないよ、俺なんかまだまだ」
 そう、まだまだだ。オスカーの足をひっぱり、あげくの果てにこっぴどく殴られた……。陰気になっても仕方がない。ランディはすっくと立ち上がるとエノルムのほうを見た。
 「いいよ、エノルムさん。でも、俺、本当にそんな強くないからガッカリしないでくれよ」
 「エノルムの相手は後にされたほうがよい」
 後ろから声がした。ランディが振り返るとジュリアスがゆっくりとこちらに近づいてきていた。
 「ある程度体を慣らしてからでないと」
 そう言うとジュリアスは、修練場の壁にかけられた練習用の剣をとり、ランディにも一振り渡した。
 「精進の様子を見せるがいい」目を細めてジュリアスが小さく言った。
 周囲はざわめいたが、当然のようにランディは剣を受け取り、構える。その瞬間、賑やかだった修練場は静まり、二人のほうに注目した。
 ランディの持った剣の切っ先がジュリアスへ向かう。ジュリアスに対して油断は禁物だ。彼が聖地を去る前、ランディはかなり痛めつけられた。隙を見せると容赦なく抑え込まれる。体が細い分、動きに切れがあり速い。それを知るランディは先手必勝とばかりに突っ込んだのだが、ジュリアスはすでにランディの懐に入っていた。
 だが、ランディもあのころとは違う。いくつか実戦経験を積んでいる。持ち前の敏捷さでジュリアスの切っ先を払った。
 エノルムがぴゅう、と口笛を吹いた。
 「本当だ。なかなかやるぜ、ランディ様!」
 場内は騒然となった。兵士たちは口々にジュリアスとランディに声援を送り始めた。