朱金の王花
とことこと歩いてきたエドワードは、ぶすっとした顔で「まあな」と口をとがらせる。だがロイは構わなかった。不機嫌な顔など見えないそぶりで、エドワードを思い切り抱きしめたのだ。
「わっ、ちょ、たいさ!」
「…よかった、無事で…」
安堵のため息をつく大人はさっぱり話を聞いていない。眉間にしわを寄せたエドワードだが、こちらを見ている自分と似た顔に気付くと、困った顔で肩をすくめた。仕方ないだろ、というように。それを見て、初めて「花の精」は笑った。笑うと、余計にエドワードに似ていた。
「…おまえの王様は、素直だな」
花の精はぽつりと呟いた。その言葉が耳に入ったのか、はた、とロイは我に返りエドワードの体を離す。そして、檻の中にいた人を振り向いた。
「…長い間。こんなところに閉じ込めて、申し訳なかった」
「…おまえがやったわけじゃない」
小さく笑って目を細めたひとに、ロイは複雑な顔をした。
白い長い服をまとっていた姿が、檻が消えたことで変わり始めていた。目にも鮮やかな、紅い色の衣に変わり始めていたのだ。
「…帰られるのですね」
佳人を縛るものは消え失せた。この上留まる必要など何もない。しかし問いかければ、なぜかそのひとは首を振り、エドワードを振り向いた。
「…鋼の?」
ロイは佳人の行動も不思議だったが、目をそらさずに花の精を見、そして手を差し出したエドワードの行動の方がもっと不思議だった。
「…っ!」
だが、不思議と思っている暇はなかった。花の精とエドワードの指が触れ合った途端、ぱあっと光がはじけて、あまりの眩しさに一瞬目を閉じている間に、花の精は消えてしまったのだ。さすがに呆然とあたりを見回したロイと対照的に、エドワードは手を固く握りしめて無言でいた。
「…鋼の、いったいなにが…」
諦めて問いかけたロイに、エドワードは意味ありげに笑った。
「…秘密」