こらぼでほすと 拉致10
「すっごい拾いモノでしょ? たまたま僕とアスランがママが怪我して隠れているのを発見したんだけど、とっても危なかったんだよ? ほら、右目が見えないのも、その所為なんだ。」
髪を持ち上げて右目の付近にうちゅーと吸い付くと、ニールはびっくりして飛び上がる。視界がないから、そちらから来られると、まったく回避ができない。ナタルも、それで気付いたらしい。
「こらっっ、キラ。やめろっっ。」
「くくくく・・・ママ、こっちだと反応しないよね? あ、そうそう、まだ裏社会のほうはママを探してるから、ナタルさん、どこにも言わないでね? ママ、もう引退させたから。」
「わかった。口外はしない。」
ナタルが外で呟いたところで、大したことないだろうが用心するにこしたことはない。裏社会との関わりを断ち切って、ひっそりと生活しているということなら、事実にも沿っている。
「ほら、ママ。休憩して、僕が代わるから。」
「キラ、ニールのためにスープを注文したんだ。それだけは飲ませたいんだ。しばらく待ってくれ。」
「ありがとう、ナタルさんっっ。じゃあ、僕もフルーツ頼んでいい?」
「好きなものを注文しろ。ニールは? 」
「いえ、もう十分です。ナタル様、他のものも取り分けましょうか? 」
「いいから、おまえは座っていなさい。八戒、スープ以外にも、何かないか? 」
「そうですね、ナタル様にはツバメの巣のデザートなどいかがでしょうか? コラーゲンたっぷりなので肌の荒れにも、よく効きます。それにクコの実や松の実などをトッピングしますと滋養もございますよ。」
「では、それをふたつ。ニールにも食べさせたいんだ。」
「承知いたしました。もう少しお飲みになられるつもりなら、菊花酒を、ご用意いたしますが?」
なんだかんだと追加注文が出て行く。いいのかな、と、ニールはドキドキしているが、スタッフの演技は完璧だ。ここで完全にしらばっくれておかないと後々、ナタルが気付くことになるから真面目に演技している。それに事実には違いないから、違和感もない。事実、キラが広い宇宙空間を漂っていたニールを補足して回収させたし、怪我もしていたし、引退させて子育てしつつ、店の手伝いをしている。
「しかし、まったく気がつかなかった。八戒も隻眼だと知ったのは、教えてもらったからだし、私には人間観察の力はないな。」
「いいえ、僕もニールも、リハビリしているから、お気づきにならなかっただけです。」
「そうですよ、ナタル様。」
「最初、ママは、あっちこっちぶつかってたもんね。そういや、ナタルさんは正規軍のままなの? 呼ばれなかった? 」
キラは、アローズへの移動などはなかったのか、と、深刻にならないようにナタルに尋ねる。
「私の場合は家が軍関係だから、そちらからの召集は受けなかった。かなりの人間が招聘されている様子だ。正規軍と力が拮抗してきたぞ、キラ。」
「え? 連邦の正規軍と同等? 」
「ああ、人数的には、もちろん正規軍のほうが上だが、火器やMSは新型ばかりだから、そういう意味では手強いだろう。ちょっかいをかけるなら慎重にな? 」
「かけるつもりはないから大丈夫。僕、ホストでのほほんと働いてるのが性に合ってるみたい。」
「くくくく・・・そうか、そういうことにしておいてやろう。派手に動くな。アローズのスポンサーは巨大だぞ。」
「くふふふ・・うん、了解。」
ナタルも、キラたちが何かしらやっていることには気付いているのだが、そこいらはスルーの方向だ。先の大戦ほどの無茶をしないなら問題はない。それとなくアローズの叩ける部分を教えていたりする。アローズは、連邦からの資金だけで成立していない。民間から、かなりの資金提供を受けている。このことは、連邦の正規軍でも一部しか知らない事実だ。
「ほら、ニール。スープを飲みなさい。」
難しい話は終わったとばかりに、ナタルも隣に座っているニールに注文したスープを指差す。ニールが何者なのか、なんとなく理解したとしても、キラが隠すつもりなら、ナタルも、それ以上のツッコミはしないし、実際に、右目が見えないなんてことになっているなら戦力にはならないと判断もしていた。だから、そのまま鵜呑みにはしないが、そういうことだと納得はした。
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作品名:こらぼでほすと 拉致10 作家名:篠義