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何が足りない?

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・・・やっぱあの二人はああしているってことは、ちゃんと『付き合って』るんだよねえ。
あたしはそんな彼らの様子を見ながら、もう一度ため息をついた。
…たった一言でいいんだけどな。
乱馬がたった一言あたしに言葉を投げてくれるだけでいいんだけどな。
あたしは、ボーっと彼らの姿を眺めながらそんなことを思っていた。
…と、そのときだ。
「あー、終わった終わった」
そんな声がしたかと思うと、それまで静かだった教室のドアが、ガラっと勢いよく開いた。
どうやら補習が終わったのか、乱馬が戻ってきたようだ。
「待っててくれたのか?」
乱馬は、あたしの姿を放課後の教室で見つけて、ちょっと驚いている。
「…別に。ちょっと教室でひとりでぼんやりしてただけよ!」
あたしは「いかにも待ってました」という態度をするのが嫌で、そんなことを口走りながら自分 のカバンをさっさ
と抱える。
「ふーん」
乱馬は、そんなあたしをちょっと嬉しそうな顔で見ながら、自分も荷物をまとめる。
そして、
「さ、早く帰るわよ!もうすぐ日が暮れちゃうよ」
あたしはそんな乱馬の横をすり抜けるように教室を出ようとしたけれど、
ガシッ…
乱馬の横を通り過ぎようとしたその瞬間、ふいに乱馬に腕をつかまれてしまった。
「ちょ、ちょと何よ!」
あたしはあわててその手を引き離そうとしたけど、乱馬の大きな手はあたしの華奢な腕をがっしりと掴んで一向に
離す気配はない。
「痛い…」
あたしがぽつんとそういうと、
「ごめん。でも…」
乱馬は、あたしの手をゆっくりと離しながら、ちょっとためらいつつも、
「でもよ、ホントは待っててくれたんだろ?ありがとな」
乱馬はそういって、笑った。
「べ、別に暇だったし、それに…放課後の教室は好きだしッ…それに…」
あたしは、そんな乱馬の嬉しそうな笑顔を直視することが出来なくて、思わずあさっての方向を向きながらそんな
ことを口走る。
「よく言うよ…ったく、ホント素直じゃねーよな、あかねは」
乱馬は、そんなあたしの様子を見ながら、おかしそうに呟く。
「…どーせ素直じゃないわよッ」
あたしは、真っ赤になりながらふいっとそっぽを向く。
「お前なあ。そんなに素直じゃねえと一般的な男にはもてねえぞ」
乱馬は、そんなあたしのそっぽを向いた頬を指でツンと突っついた。
『一般的な男にはもてねえぞ』
その言葉が、自分で思っていたよりも重く、あたしの心に突き刺さる。
『だいたいおかしいやん?あかねちゃんみたいに凶暴で素直じゃない許婚と、うちみたいな かわいー許婚。男だっ
たら絶対にうちを取るとおもうんやけどなあ?』
…この言葉があるからかもしれないけど。
「…どーせあたしは、素直じゃないし可愛くないわよ」
あたしは、ぼそっとそう呟いて、下を向く。
すると乱馬は、
「…ま、少なくともお前の周りには一般的な男って奴が少ねえのが救いだよな」
すると。
乱馬はそういって、下を向いたあたしの頭をポス…と軽くたたいた。
「…俺を含めてさ」
「え?」
乱馬の言葉に驚いたあたしが慌てて顔を上げると、
「さ、そろそろホントに帰ろーぜ!」
乱馬はそれ以上はいわずに、にっと笑いながらあたしにすっ…と右手を差し出した。
「…何?」
あたしがボーっとしながらそう尋ねると、
「…手」
乱馬は赤くなりながらあたしの空いている左手を、取った。
乱馬はあたしの、まだ居心地の悪そうにしている手をきゅっと握って歩き出した。
「・・・」
(こうして、手を繋いで歩いたりはするのに…)
・・・こうして歩いていても、まだあたしたちは恋人同士では、ないんだよな。
ほら、まただ。
何だか不思議な感覚に包まれながら、あたしはしばらく乱馬の背中を見つめていた。

特に付き合ってるわけでもなく、「好きだ」とお互い言い合ったわけでもないあたしたちがこう して手を繋いで普
通に道を歩くってちょっとおかしいかも。
今のあたし達は、すっごく中途半端な関係なんだな。あたしは、そんなことを思っていた。
でも、だからといって、「好きだ」「つきあってくれ」そんな言葉があたし達の間で流れ込んでくるだけで、あた
したちのこの中途半端な関係は、何か変ったりするのかな?
そりゃ、そういう風に決めの「言葉」をお互いに伝えたら少しは変化はあるかもしれない。
でも、その言葉を持続させていくためには、何か根本的なものが必要な気がする。
今のあたしたちには、きっとその根本的なものが、足りないような…
(きっと今のあたしたちには、何かが足りないんだ。言葉ではない、何かが…)
…あたしは、ふとそれに気がついた。
じゃあ、何なんだろう?
何が足りていれば、こんな不安定なあたしの気持ちは落ち着くんだろう…
あたしはそんなことを考えながら道を歩いていた。
と、そのとき。
偶然、妙な人だかりとあたし達は出会った。
見るとそこは、東風先生の接骨院。
・・・ははあ。かすみお姉ちゃんがきてるのね。
あたしは直感で それを感じたのだけど、乱馬にはそれが何の集まりだかわからないようで、しきりに不思議がっ
ている。
「ばかねー、あんた。あれはね…」
あたしはこっそりとそれを教えてあげようと思って、なにげなく乱馬の耳に届くように背伸びをし、
「なんだよ」
乱馬もそんなあたしが耳にささやいてくれるのをボーっと待っている。
「あのね…」
あたしはそのままこっそりと教えてあげようとしたのだけれど、
「…」
…その瞬間に、あたしは気がついてしまった。
「?おい、どうしたんだよ?急に黙って?」
「あ…ごめん。あのね」
あたしは慌てて乱馬の耳元へ「かすみお姉ちゃんが中にいるらしい」とささやいたのだけど、その心の中は複雑
だった。
そう。
あたしにはそのとき、偶然だったけど、分かってしまった。
あたしたちに足りないものは何なのか、分かってしまったのだ。

…わかった。

あたし達に足りないのは、「好きだ」とか「付き合ってくれ」とかそんな言葉ではなく、もっと根本的な、もの。
さっきあたしが乱馬の耳に近づくために背伸びをした、あの「つま先」分の、距離。
…乱馬があたしに対して少しもかがむことなくとっていた距離。
あたしが無理して背伸びした、距離。
その二つの距離を結ぶ、ちょうどあたしの「つま先分の距離」。
それを縮めようと思う心が、あたし達には足りないんだ。
このたった数センチの距離を縮めるためには、一体どれくらいの時間と勇気と言葉が必要な んだろう?
そして、このたった数センチの距離を縮めるためには、これからどうしたらいいんだろう?
…あたしは。
ようやくわかったその現状を痛いほどかみ締めながら、再び乱馬に手を引かれて歩き出した。
あたしたちの距離は、まだ…遠い。
作品名:何が足りない? 作家名:永野刹那