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水底にて君を想う 波音【1】

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波音【1】

「おっかしいなー」
 賢木はそう言いながら、着けていたリミッターを外す。
「壊れたか?」
 金色のブレスレットを模したそれは、比較的気に入っているデザインだ。
 電池はこの前変えたばかりだから、壊れた確率の方が高い。
 賢木は溜息一つついて、立ち上がった。
 専門家に聞いた方が早い。
 皆本の研究室はどうせすぐ近くだ。


 チルドレン達が学校に行っている間、皆本は資料室か研究室にいることが多い。
 もともとが研究者だ。
 出動の無いときは、リミッターの開発やECM、ECCMの改良に余念がない。
 バベル内部では、子守、指揮官、研究者、開発者とおよそ休む暇のない彼が死亡するのは、任務によるものではなく過労死に違いないと密かに噂されている。
「みなもと~、いるかー?」
 どこまで軽い口調で言いながら、扉を開けると、皆本の背中が出迎えた。
 賢木は肩を竦める。
 こちらに気付いた様子がない。
(まーた研究に熱中してやがるな。てか、昼飯も食ってねえなこりゃ)
 壁の時計に目をやれば、とうに三時を過ぎている。
「み・な・も・と」
「うわっ!」
 耳元で囁かれて、思わず声を上げる皆本。
「何をするんだ賢木!」
「何するんだ、じゃあねえよ。お前、飯は食ったのかよ」
「飯?」
 皆本の目が時計にいく。
「……時間が飛んでる」
「たく、前にもいったけどよ、お前が倒れちゃ何にもならねえだろ」
「す、すまない」
 申し訳なさそうに笑う皆本。
 急に幼く見える。
「何か腹に入れろよ」
 賢木は座ったままの皆本の腕を取る。
 とたんに、皆本の意味をなさない感情が流れ込んでくる。
「っ!」
 慌てた賢木が手を離す。
 とバランスが崩れ皆本は賢木の胸に倒れ込む。
「と、とと」
 皆本の肩を賢木が掴む。
 今度は、細心の注意を払って能力を抑える。
「す、すまない賢木」
「いや、俺こそわりい」
 微かに頬を染めて皆本が、体勢を立て直す。
「あー、リミッターの調子が悪くてよ。その気もないのに透視んじまって」
「そうなのか?」
 頷く賢木に皆本は首を傾げる。
「さっきも手摺に触れたら、『皆本のロリコン!』とか聞こえてきてよ」
「さ、か、き」
 皆本の眼鏡がキラリ、と光る。
「ウソウソ」
 あまり口にしたくない事が流れ込んできたのだが、わざわざ言う必要もない。
「気を張ってりゃ、平気なんだがなぁ」
「うーん、熱は?」
 一週間ほど前、高熱で倒れた賢木を皆本は案じる。
「平気。てか、疲れが出ただけだったしな」
 インフルエンザかと思ったが熱は一日で下がった。
 皆本の命令で次の日も休まされたが、おかげで体調はすっかり戻っている。
「そっか。じゃあ、リミッターの方かな。調べてみるよ」
 差し出された手に賢木はリミッターを渡す。
 何気ない仕草だが、皆本には賢木が触れないように気を使っているのが分かった。
「いつでもいいぜ、帰れば他のがあるし」
「ん」
 リミッターを背広のポケットにしまいながら、皆本はもう一度賢木の表情を伺う。
 何時もと同じ、憎めない笑顔だ。
(僕にまで気を使わなくていいんだけどな)
 そうは思っても皆本は口にするのはやめた。
 と放送が入る。
 『賢木先生、賢木先生、至急医務室までお戻り下さい』
「いけね」
 賢木は、白衣を翻す。
 扉のところで振り返り、
「飯、食ってこいよ」
 と言い残して足早に去く。
 その足音を聞きながら、皆本は苦笑していた。


 呼び出しを受けた患者もたいしたことなく、それ以降は存外暇な時間となった。
 チルドレンたちがそろそろ学校が終わる時間だ。
 賢木はそう思いながら、椅子の背もたれに寄りかかる。
 ふと、先ほどのことが思い出される。
 倒れこんできた皆本は、スーツを着ていると細身に見えるが、触れてみればしっかりとしていた。
 鍛えられた体だ。
 現場に赴く皆本は生傷も堪えない。
 担当医師として、傷の手当てをすることが増えた。
(なんだかなー、学生時代は虚弱な坊やだったんだが)
 特務エスパーの件を引き受けたのは手助けするためだが、どの程度の役に立っているのか。
 賢木は自分の手をじっと見つめる。
 わずかに温もりが残っているような気がして、頭を振る。
(おいおい、欲求不満の中坊かよ)
「……アケミにでも電話すっかな」
「センセイ、不潔」
 突然の声に見れば、扉のところに皆本とチルドレン達がいる。
 声の主は紫穂だ。
「なーにが不潔なんだよ。女にモテるのは男の勲章だぜ。な、皆本」
「そーゆう話は僕に振らないでくれないか」
「なんや皆本ハン。うちらがおるやん」
 何時もの定位置、皆本の左腕に腕を絡ませながら、葵がその顔を見上げる。
「そーだよ皆本。あたし達がいるんだからいいじゃんか」
 浮きながら薫が皆本の頭を揺する。
「こら、やめろ薫。大事な話があって来たんだから」
「はーい」
 薫は仕方ないと足を床につける。
「何だよ、大事な話って」
「悪いけど、薫たちは先に帰っててくれるか。柏木さんに頼んでおいたから、迷惑をかけないようにな」
 皆本は、賢木の言葉にちょっと待って、と言いながら、チルドレン達につげる。
「私が居たほうが、都合がいいんじゃない?」
 紫穂は皆本の左手を掴みながら尋ねる。
「頼むかもしれないけど、今はとりあえずね。ティムやバレットにも声をかけて上げてくれよ」
「「「はーい」」」
 良い子の返事が三つ重なる。
 保父さんか、賢木は思わず笑う。
 チルドレン達が出て行くのを待って、皆本が賢木の方に向き直る。
 その真剣な瞳に、思わず賢木の背筋が伸びる。
「確認の為に聞くけど、体調は悪くないんだよな?」
「ん、ああ」
「そっか」
 一人で頷く皆本に賢木の額に汗が流れる。
「おい、おい。何の話だ?」
「先に言うと、リミッターに異常はなかった」
「へ?」
「考えられる結論としては、お前の能力がなんらかの変化をしてるってこと」
 変化、賢木は皆本の言葉を一度反芻する。
 なるほど、確かに超度が上がりつづけていた子供の頃は、リミッターの効きが悪かった。
 納得しながらも、賢木は首を捻る。
 しかし、今更超度が上がるとは考えにくい。
 6の上は7だ。
 そこまでの威力が出てるとは思えない。
 そんな賢木の考えが分かったのか、皆本は言葉を続ける。
「安定している能力が大きく変わるのは稀だから、何か新しい能力が発現しようとしているのかも知れない。検査してみないか?」
「検査ねぇ。確かに、他人の検査はしても自分のはしてないからな」
 だから、紫穂が自分がいた方が、と言ったのかと賢木は思う。
「一時的なものかも知れないから、今日の今日じゃなくてもいいと思うんだけど」
 早い方がいいだろう?と皆本の目が賢木に問う。
「……そうだな。このままリミッターが効かないのも困るしな」
 皆本はホッと息をつく。
「なんだよ。断ると思ってたのか?」
「いや、そうじゃないけど。その、今の状態って検査とかも辛いのかと思って」
「まあな。機器とかからも透視めちゃうからなあ。でも、ま、お前がやるなら大丈夫だろ」
「なるべく早く済ませるよ」
 信頼を伺わせる言葉に皆本は笑って応えた。