赤ずきん役のアンディ
あるところに、赤いずきんのよく似合う、大変かわいらしい女の子がいました。女の子は、みんなから『赤ずきん』と呼ばれていました。
……っていうか、このお話では、あるところにいたのは赤いコートにそのフードがよく似合う男の子……アンディ……で、みんなから呼ばれていたのは『四番目の執行人』『片目の首狩屋』などでしたが……都合上、ここは『赤ずきんちゃん』で。
さて、おうち……カラスの巣(本部)……にいた赤ずきん役のアンディは、お父さん役のカルロとお母さん役のモニカに頼まれて、今は離れたところにいるお兄さん役のウォルターのところにワインとパンを届けることになりました。
お兄さんは怪我をして寝込んでいるので、お見舞いです。
「寝込んでる人にワインってどうなの?」
とか、赤ずきんアンディは思いましたが、お見舞いに行くことに問題はなかったので、大人しくカバンを持って出かけました。
てくてく歩いていると、あっさり迷子になりました。
待ち伏せしていた狼役のリカルドさんは、一向に赤ずきんちゃんが現れないので、イライラしていました。
ようやく元の道を見つけて正しい方向に歩き出した赤ずきんアンディは、狼役リカルドに出会いました。
やっとか、とリカルドさんは思いました。
出番までずいぶんと待たされました。
「おい、赤ずきん!」
予定されていたセリフよりもちょっと乱暴に、狼役リカルドは呼びかけました。
「見舞いなら花でも持っていってやれ。そのほうがおばぁ……お兄さんも喜ぶだろ。あっちに花畑があるから、摘んでいけ」
『なんでおばぁさんのお見舞いじゃねぇんだ!!』と、リカルドさんは原作と比べて納得のいかないものを感じています。
赤ずきん役のアンディはきょとんとして言います。
「え、いや、いらないでしょ。花なんか持っていってもウォルターが喜ぶとは思えないし……。だいいち、気持ち悪い」
最後のは、『花を摘んでいる自分が』ということです。男の子なので。
リカルドさんはイラッとします。
「お見舞いに食い物や花は常識だろ。ってか、なんで食い物の入ったカゴ持ってねぇんだ、赤ずきんなのに……。そのカバンは違うだろ」
アンディはぽかんとして、当然のことといった口振りで返します。
「だって物騒だから。狼もいるし、銃持った人もいるし……危ないでしょ」
「なんてたくましい主人公!! 『赤ずきんちゃん』役、向いてねぇな。もっとかよわいのはいなかったのかよ。少なくとも女だろ」
脳裏に『はーい、はいっ!』と手をあげて飛び跳ねるメーラがいますが、リカルドさんは無視しました。メーラちゃんも別にかよわくはないですし。
手を腰に当て、もう片方の手で額をおさえ、はあ……と大きなため息を吐きます。
「とにかく、そういうことになってるんだから、そうしてくれ。でないと、役柄的に俺が困る」
「あんたが困るのとかどうでもいいよ。行かれるほうが困る」
「役柄!! シナリオ!! この自己中!!」
というわけで、赤ずきんちゃんは狼に唆され(?)、お花畑に花を摘みに行きました。そうして赤ずきんちゃんが寄り道している間に、狼は先回りしてお兄さんのところに……。
「……で? なんなわけ?」
怪我で寝込んでいるお兄さん役ウォルターは、もう呆然として相手を見上げます。先ほどから、自分をじっと見下ろして、動かない相手。
狼役のリカルドさん。
「何しに来たの?」
「それを今俺も考えてる……」
『役』なだけで、本物の狼ではありませんから、本当に食べるわけにはいきませんし、となるとお兄さんになりすますこともできませんし、殺してしまったら話の都合上マズイですし、どうしたらいいのかわかりません。投げやりに言います。
「あー……とりあえずアレだ。おまえ、どっか隠れとけ。大人しくしてろ」
「えっ、ちょっ……俺、怪我人なんだけど!!」
お兄さん役ウォルターを狼役リカルドはベッドから引きずりおろして、ズルズルと足を引っ張って家の裏に連れていきます。そして放置。
後は、お兄さんになりすまして、ベッドに横になります。
作品名:赤ずきん役のアンディ 作家名:野村弥広