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燃しちゃってくれないか

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 薄く開いた唇から零れる僅かな呼吸を聞き取ろうとするかのように、執拗に少年の横顔を見つめながら臨也はガラスの向こうの輪郭をなぞって顔をしかめた。
 夕刻を過ぎた池袋の街は既にネオンと街灯であちこち燃えていて、コーヒーショップのウインドウにきつく反射する。
 目当ての少年、竜ヶ峰帝人はかれこれ30分近く向かいの路上で知人との会話に花を咲かせていた。と言っても灰を撒き散らしているのは彼ではなく、その知人の方で書籍を片手に身振り手振りで嬉々としていた。
 臨也の隣に座るサラリーマンが何度もカウンターテーブルに叩きつけられる彼の人差し指を嫌そうに見たが、射殺さんばかりに外を凝視する赤い瞳に男はそろりと席を立った。
 店の外、制服のままの帝人は硬く鞄の紐を握り、その童顔に困惑を浮かべ若干身を引いて相槌をうっていた。
 帝人と話し込んでいる青年と、その連れには見覚えがあった。
 高校の同窓生といつも一緒にいる面子だ。しかし彼等をまとめ上げている肝心の同窓生は見当たらない。
 心臓が血液で一杯に膨らむ様な不快感に耐えながら注意深く様子をうかがっていると、帝人があいまいな笑みで頷いたのを合図に青年はさっと彼の手を取って何度も振った。書籍を握らせた彼の手の上にその手を重ねて何事が熱心に言い聞かせているようだった。顔が近い。
 思わず腰が浮いた。
 「っ」
 膝がテーブルに当たり、マグカップが揺れてコーヒーが跳ねる。
 舌打ちが洩れた。



 某日、池袋某所、来良高校下校時刻。
 「やあ、帝人君」
 場所も時間も計算の上で、臨也は帝人の前に現れた。傍らに女性を連れて。
 「こん…に、ちは」
 帝人は臨也の隣にいる女性を気にしながら会釈をする。白い顔をした美人で、爪に塗られた赤に酷く病的な印象を覚えた。とても若く見えるが、年老いているようにも見える。何よりもその目からは生気が欠けていた。
 戸惑いをそのまま瞳に流し込んで臨也を見るが、彼は何時もの調子で会話を続ける。
 「偶然だね。学校帰り?」
 「はい……」
 「夕食はまだだよね?良かったら一緒にどうかな」
 「は……ええ?いえ、あの、とてもお邪魔するわけには」
 帝人は一度怪訝な顔をして、その表情をすぐに消すと半歩後ずさって首を振った。
 「邪魔?ああ、彼女の事を気にしてるの?心配はいらないよ、彼女とはここまでの約束だから」
 じゃあね、と臨也はぼんやりした微笑みを浮かべた女性に声を掛ける。
 「今日は、ありがとうございました」
 平坦な声を残して去って行く女が雑踏へ消えるのを見送ると、臨也は人好きのする笑みを帝人へ向けた。
 「さ、どこにしようか」
 「ええ、と……」
 帝人はきまり悪そうに言葉を濁す。断わりの言葉を探すように、視線を漂わせた。
 「もちろん俺のおごりだから遠慮しなくて良いよ」
 「あの、僕が御一緒するのは確定なんですか?」
 「せっかくだから、ね。内緒モードでオフ会ってことで良いでしょ、太郎さん」
 「お、折原さんっ」
 「行こうよ。あんまりのんびりしてると面倒なのに見つかっちゃうから」
 HNを出されて慌てる帝人を流して、臨也はずいと顔を寄せた。
 「……わかり、ました」
 覗き込んでくる赤い瞳が以前見た剣呑な閃き方をして、帝人は頷かざるを得なかった。
 「うんうん。物わかりの良い子は好きだよ、俺」
 臨也は満足気に頷いて、軽い足取りで歩き出す。帝人は慌ててその背中を追った。
 「ねえ、さっきの女の人、気になる?」
 やっと自分の横に並んだ帝人に対して、臨也は問いかけた。
 「え?いえ、そんな」
 「仕事関係の人だよ」
 「はあ、そうですか」
 「……………………」
 「……………………」
 「……それだけ?」
 「え?……ええ。いえ、それって聞いて良い事ですか?」
 「うーん、本当は駄目だけど帝人君になら教えて良いよ。無料で」
 「何時もはお金とるんですか!?」
 「もちろん。俺は新宿の情報屋さんだから」
 「はあ」
 「気のない返事だねえ」
 「そんなつもりは……」
 「いいよ。……ここにしようか」
 臨也は笑って手を上げてみせると、おもむろに足を止めてその場にあった店へと入って行く。
 「ここって……」
 木とガラスで出来た引き戸の向こうは二階席のある居酒屋だった。
 「いらっしゃいませこんばんわー」
 活気のある接客に帝人は身を竦ませる。
 都会の居酒屋に未だ入った事が無かった帝人は、無意識に臨也の影に隠れるように身を寄せた。
 小さな子どもがするような仕草が可笑しくて臨也は声に出さずに笑うと、店員に人数を伝えて座席へと先導する背中に続く。後ろ背にぴたりとついてくる気配に苦笑しながら。
 「ご注文お決まりになりましたら、そちらのボタンでお知らせ下さい」
 店員の声に頭を少し下げて会釈をする帝人をメニュー越しに見て、臨也は借りてきた猫みたいだなと思った。
 「はい、どれでも好きなもの頼んで良いよ」
 「あ、はい。ありがとうございます」
 帝人の方へメニューの正位置が来るようにして、臨也はオードブルを覗きこんだ。
 「何食べたい?君、もっと体に肉付けた方が良い」
 「……そんなに不健康そうに見えますか?」
 「うん。どこもかしこもぽっきりいきそう」
 「そうですか?結構丈夫ですよ」
 「あはは。何基準にしてんのかわかんない」
 複雑な顔をしてメニューとにらめっこをしている帝人を眺めながら、臨也は自分が落ち着かない気持ちでいる事に気が付いた。いや、落ち着かないと言うのには語弊がある。浮足立っているのではないか、と己を分析した。
 誰かととる食事は久しぶりでもなんでもない。誰かと食事をとりたかったわけじゃない。ただ、竜ヶ峰帝人に先日の青年の様に話をして…………頬笑み掛けられて、手を、握っ…て…………?
 あれ、おかしい。
 何かとても大切な、根本的な疑問が臨也の頭を過ったが、深く思考に入り込もうとする彼を、水とおしぼりを持ってきた店員の声が引き戻す。
 はっとして臨也は帝人を見た。
 「どう?決まった?」
 「あ、ええと…じゃあご飯と焼き鳥と玉子焼きを……」
 「飲み物は?」
 「お冷があるので大丈夫です」
 「遠慮しなくてもいいから」
 逡巡する帝人を促して勝手にウーロン茶を注文すると、臨也はメニューから適当につまみになりそうな物とビールを頼んだ。
 「…………」
 「…………」
 店員の後ろ姿を視界に入れながら、臨也は考える。
 そもそも何故自分は、今日彼の前に現れたのだろう。わざわざ信者の子を連れて。
 何故彼を見ていたのだったか。
 彼を、どうして…………。
 ああ、ああそうだ。
 臨也は混乱した思考をねじ伏せるように言葉を紡いだ。
 「最近どうだい?」 
 「最近ですか?」
 「そう。何か変わった事とかあった?」
 例えば男に手を握られた、とか。
 「…………ダラーズに、特に変わった事はないと思います、けど……何かあったんですか?それともこれから何か」
 「ああ、そうじゃなくて。君の事」
 男に手を握られたとか。
 「……?」
 「……この間、本を借りてたよね」
 「え?」
 「……ほら、ワゴンの」
作品名:燃しちゃってくれないか 作家名:東山