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笑顔について。

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コツッ、コツッ、コツッ……
 広い屋敷の通路に足音が響く。大きな窓からは青白い満月の光が入りこみ、通路を歩くふたりを照らしている。
 ひとりは屋敷の主人。でっぷりと太った、いかにもお金持ちらしい高そうなスーツを着た、中年の男性。
 もうひとりはメイド。女性のわりに長身だが、細身で、黒く長い髪を後ろでひとつに束ね、黒縁の眼鏡をかけていて、おとなしそうな印象だ。分厚いレンズの向こうの瞳は、うつむいているせいもあって見えない。
 屋敷の主人である男は、上半身を反らすようにして胸を張って歩いている。一歩一歩が大きく、ゆっくりとしていて、余裕がある。
 その後ろを、メイドがしずしずと、付きしたがって歩いている。
 男はひとつの部屋の扉の前で止まった。女性を振り返り、あごで促す。女性は静かに男の前に出て、部屋の扉の前に立ち、取り出した鍵の束からひとつの鍵を探し出して、鍵穴に入れた。
 ガチャッ。
 メイドは扉を開き、横に退いて、男に向かって頭を下げる。
 男は鷹揚にうなずいて、中に入った。
 パタン……と、男の後に続いて中に入ったメイドが、扉を閉めた。
 男は部屋を横切り、絵のかかった壁の前まで来ると、足を止めた。
「フッフッフッ……」
 男が口の端をつり上げ、低く笑う。やがて、その笑いはどんどんと高く、大きくなっていった。
 絵を眺めて笑っているようだが、そうではない。
 男は側のテーブルに、手に持っていた小さなトランクをドサッと置いた。そして、鍵でトランクを開け、中身を出す。一見、絵画でも入っていそうなトランクだったが、中身は書類だった。
 男がそれを確かめ、大笑いした。
「ハーッハッハッハッ! 間抜けな怪盗め!!」
 天井を見上げて、笑いに歪んだ顔を肉厚の手のひらで覆う。それは、まるで失敗を嘆くようなしぐさだったが、自分の失敗ではなく、嘆いてもいなかった。
 メイドは静かにそれを見守っている。
「宝石などいくらでも盗むがいいさ! あんなもの、私には大した価値などない!! そうだ、これさえあれば……これがあればもっと莫大な金が手に入るんだ!!」
 見えない天に向けて大きく両腕を広げ、大声を出す。勝った、という喜びの声だ。
 メイドを振り向き、にやついて話す。
「あの宝石はこれを手に入れるための道具に過ぎない。まあ、アホな怪盗は引っかかったみたいだがな。宝石お披露目のパーティーでさえ、この書類を手に入れるための手段だったというのに……。まさか宝石をひろめるパーティーで、兵器の資料を手に入れようとしているなどとは誰も思わんだろう! あの画商が闇の商人だとは誰も気がつくまい!! 宝石に注目が集まってくれて、あのクイーンとかいう怪盗には感謝しなくちゃならんな。騒ぎのおかげで、助かったことがいくつもあるよ」
 それから、話している相手がメイドであることに今気がついたというように、相手をまじまじと見る。そして、男は少し違った笑みを浮かべた。
「……君も、実によく働いてくれた。パーティーを開くからと臨時に人を増やしたが、君は感情がなくて、実にいいメイドだ。どうだい、これからもここで働いてくれないかい」
「ありがとうございます」
 メイドは男に丁寧に頭を下げた。そして、男にスッと近付く。自然に、空気が動いただけというように。そして、何の感情もこめずに言う。
「お話は大変ありがたいのですが……」
 サッと顔を上げた。眼鏡の奥の青い瞳が、キラッと不気味に輝く。女性の澄んだ高い声が急に変わった。低い、男の声に。
「ぼくには、すでに『怪盗のパートナー』という仕事がありますので」
 男は驚く暇もなかった。何故なら、その瞬間には男の首に手刀が叩きこまれていたからだ。
 男は一瞬で気を失った。『ですが……』というメイドの言葉に不思議そうな顔をした時のまま。
 ジョーカーの言葉を理解することもできずに。


 ジョーカーは、倒れた男を冷たい目で見下ろす。
 そして、ぽつりとつぶやいた。
「感情がない……?」
 いまいましげに男を邪眼でにらみつけ、その足を持ち上げ、男の足の上に持っていく。
「……ありますよ。ぼくは、今とても腹を立てている」
 踏みつけようとして寸前で止めた。フンと鼻を鳴らし、側のテーブルに置かれたトランクに手をのばし、中身を確認して、パチンと閉じ、持ち上げる。
 トランクを持つと、もう男には目もくれず、その場を去った。


作品名:笑顔について。 作家名:野村弥広