二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

笑顔について。

INDEX|4ページ/4ページ|

前のページ
 



 宝石をしかるべきところに安置した後。
「ところで」
 変装をといていつもの中国服に着替えたジョーカーは、ソファーでワインを優雅に飲むクイーンに尋ねる。
「どうして、悪党というのは、自分の犯罪をああも得意げにペラペラとしゃべるんでしょうね?」
 心底不思議そうだ。
 クイーンは『何をそんな当たり前のことを』というようなあきれ顔をして、ワインをテーブルに置き、話し出す。
「ジョーカーくん。犯罪者というものは、たいてい自分に自信を持っているものなんだ。そのうえ、虚栄心も強い。つまり、自慢したくて仕方がないわけだが、犯罪なのでそうそう他人に話すわけにはいかないからね……。あの屋敷の主人は、お金持ちらしく使用人を人と思わない教育を受けてきたようだし、きみにペラペラしゃべったとしてもおかしくはないよ。まあ、仲間がいれば、『そちも悪よのぅ、越後屋』『いえいえ、お代官様にはかないませぬ』『はーっはっはっは』ってなるだろうけど……」
「なんですか、『えちごや』って?」
「日本にあるイチゴに似た果物『エチゴ』を売るお店だよ。悪い人がやってるんだ」
「悪い人が果物を売るお店をやってるんですか?」
 ジョーカーは首を傾げる。
「……東洋の神秘ですね……」
 ふたりの会話を聞いていたRDは『違います!』と全力で否定したかったが、どうせジョーカーが本物の越後屋に会う可能性はゼロだったので黙っていた。
「とにかく、ひとりで悪事の計画を練る悪党というのはひとりで作品を書く作家のように孤独なものなんだ。わたしには、ジョーカーくんやRDという素晴らしい友人がいるから平気だけど」
「ぼくは、仕事上のパートナーであって、友人ではありません」
<わたしは、一介の人工知能であって、友人ではありません>
 うなだれるクイーンに、ジョーカーはかまわず続けて言う。
「なるほど。自信があって虚栄心が強く自慢したがりで寂しがり屋、と……。全部、あなたのことに聞こえますね。今回も、ずいぶんと犯行予告をネットに書き込むことに忙しかったようですし」
<褒めてもらいたいんですか、クイーン?>
 クイーンは開き直った。きっぱりと言う。
「褒めてほしい!」
 ジョーカーはRDのスピーカーに目をやる。
<ここは褒めるべきですよ、ジョーカー。なにしろ、『あの』クイーンが仕事をしたんですし……>
「どう言っていいかわからないよ。なにしろ、めずらしいことだからね……経験がなくて」
 ふたりでぼそぼそと話し合う。
 クイーンは聞こえないふりをして待っている。
<こどもの才能を伸ばすには褒めることだと聞きます。犬のしつけでも……>
 クイーンがピクリとする。RDは『失言でした』とジョーカーに向けて謝った。ひそかにクイーンが聴いていることをわかっていたので。
<わたしよりもあなたが言うほうが喜ぶでしょう。さぁ、ジョーカー!>
「ああ、そうだね……うん、わかったよ」
 ジョーカーはくるりとクイーンを振り向く。
 わくわくして待っていたクイーンに、ジョーカーは無表情で言う。
「今回は、よくできましたね、くいーん。さすがですね、くいーん。えらいですね、くいーん」
 見事な棒読みだ。
 クイーンががっくりとする。
<もっと感情をこめて!>
 RDの注文に、ジョーカーは顔を引き締める。
「とてもこの二か月間まともな仕事をしていなかった人とは思えませんでしたよ」
 クイーンがさらにがっくりとする。
<ジョーカー! もっとにこやかに、やさしく、猫なで声で、なんだかんだと言ってずるずると締切をのばそうとする作家にやる気を出させる敏腕編集者のようにいきませんか?>
「……」
 RDの注文に、その通りやってみようとして顔を引きつらせて一生懸命言葉を出そうとしていたジョーカーが、がっくりとする。
「……そんなこと言われたって……」
 なんて難しいんだ!
 とてもそんなことできない。
「ぼくは、仕事以上のことをしている気がしてきたよ……」
 疲れを感じるジョーカー。
 クイーンが不満そうに言う。
「だいたい、きみは今回のわたしの活躍を見ていないじゃないか。メイドとして忙しくて」
「そう言われてみれば、そうですね」
 クイーンはにこにこして言った。
「わたしを褒めてくれる気があるんだろ? ということは、まずわたしの活躍を見なくっちゃ! ……というわけで、今日のわたしの活躍をおさめたDVD、テレビ番組の映像、ネットの動画、わたしのファンたちのブログ、それからえーと……とにかく、全部見てもらうよ!! 感想はそれからだね」
「……」
 ジョーカーはさらにどっと疲れを感じた。
「ぼくは、メイドとしてここ数日働いていて疲れているので、また今度にしてください」
「何を言ってるんだい、ジョーカーくん! こういうのは、新しいうちに見なくっちゃね! ネットでは後になると探しにくくなるよ。ほらほら」
 『もっとわたしの魅力をわかってもらわないと!』と張り切るクイーン。殺意を覚えるジョーカー。観察するRD。
 トルバドゥールの中は、今日も平和だった。




作品名:笑顔について。 作家名:野村弥広