銀魂集(一般)
予定のない休日(高土)
「てめぇは誰だ?」
そう言って夜叉は声をかけてきた。
非番だったが、特に予定もなく、俺はただ、ブラブラと歩いていた。
仕事がないと、一人もんはする事がねぇ。
まる一日特に何するでもなく飯を食いに行ったり風呂屋に行ったりしながら過ごしていた。
そうしてそろそろ帰ぇるか、と歩いていた時に、俺は数人のろくでもねぇ輩に絡まれた。
いつもの制服を着ていないからだろうか、この俺を真選組副長の土方だと分かってねえバカどもめ。
俺はそのろくでもねえ輩を峰打ちにした。
峰打ちといえども、よくあるくだらねえ芝居と違って最初から峰を向けた構えはしねぇ。
普通に切りかかり、相手の体に切りかかる寸前で刃を返している本来のやり方でやっているから、打撃の威力はねぇが、こういったバカどもは斬られた、と思いこみ意識を断ちやがる。
そうして俺は携帯電話を取り出した。
「山崎。俺だ。あ?非番だよ、だが襲われた・・・いや、ちげぇよ、なんもされてねぇ!とりあえずこいつら攘夷浪士どもだ。今すぐ来い。ああ、場所は・・・」
場所を言って電話を切り、さて、今からしばらくどうしようか、と思っていると声をかけられた。
振り向くと、そこには粋な着物を着流し、煙管を咥えた男が立っていた。
そこにいるだけで人を圧倒しそうな威圧感とともに、なぜか見る者をすべて魅了しそうな色気をもともなったそいつは笑っているにも関わらず恐ろしい殺気を放っている。
俺が黙っていると、その男はまた口を開いた。
「なかなか迫力のある太刀筋だったな。楽しませてもらった。しかもなかなか眼福だし、な。」
「・・・あ?」
「その黒い着流しが白い肌を際立たせてる。作りもんみてぇに整った顔立ちだってぇのに好戦的な目がいい。」
「な・・・てめぇ、きめぇんだよっ!」
「ふ・・・その口のきき方も気に入った。だがな。」
おだやかに男は続けた。
「攘夷浪士、と言った、か?もう一度聞く。てめぇは、誰だ?」
フ、と笑いながら目を伏せた男が次に顔をあげた時、この俺もが一瞬震えに襲われそうになった。
だがにらみ返し、俺は言い放った。
「真選組副長、土方十四郎だ」
「・・・やはり幕府の犬か・・・。しかも幹部たぁな。いい目をしてるのに、勿体ねぇ。」
そう言うと、男は刀に手をかけた。
先ほどからどうも気になっていたが、片目を覆っている包帯・・・。こいつは・・・。
「お前、高杉晋助だな。」
「あぁ、おっしゃるとおりで。俺も斬るかぃ?」
高杉はニヤリ、とした。
俺は今は非番だ。しかも今はこのろくでもねぇ輩を、山崎が来るのを待って捕える予定でもある。
・・・こういった輩どもは最低だ。
天誅などと言いながら、実際は我がの享楽の為だけに動いてやがる。
こういった奴らどもは野放しにしておけねぇ。そしてこういった輩を抱えている攘夷グループは釣りあげて潰してしまうにかぎる。
そんな理由だからだ。
別にこいつが気になるからじゃねぇ、やり合いたくないからじゃねぇ。
俺はタバコを取り出して火をつけた。
「・・・そうしてぇのは山々だが、俺ぁ、今非番なんでね。やらねぇよ。」
「じゃあそいつらはなんだ?」
「こいつらは元々俺にろくでもねぇ事をしようとしてきやがったボケどもだ。攘夷浪士だったのはたまたまだ。まあ他を動かす餌には丁度いいからな。めんどくせぇがひっとらえる。」
「おいおい、俺を高杉と分かってて野放しかよ。」
「今は大物の捕り物をやる余裕はねぇ。うぜぇんだよ、帰れ。」
俺がそう言って追い払うように手を振ると、ク、と高杉が笑った。
「幕府の忠犬じゃねぇのか。」
「俺ぁ従うのはただ一人の大将だけだ。」
「へえ・・・。そいつが羨ましいね・・・」
高杉はそう言うと、スッと近づいてきた。
あまりの早さに俺はなすすべもなかった。
髪をつかまれ、顔を傾けられたかと思った次の瞬間には喰らいつかれるかのようにキスをされていた。
しばらくされるがままだったが、俺はようやく我に返り、刀に手をやる。
と、高杉はスッと離れ、“じゃあ、またな”と言って去って行った。
あまりの事に俺はどうやら立ちつくしていたらしい。
「お待たせしました、副長っ。って、あれ?どうしたんですか?顔が赤いですよ?」
「っ!!あ、赤くなんかねえっ!山崎っ、テメェっ、おせぇんだよっ!!」
「え、ちょ、な?何この逆切れ感満載!?俺っ、何かしましたっけ!?ちょ、やめて下さいよ副長ー。」
おもわず山崎に当たってしまったのは、ザキ、すまん、許せ。
くそ・・・最悪の一日の締めだぜ・・・。
そう思いつつも、唇の感触の余韻を少し楽しんでいたのはここだけの話だ。