二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

恋わずらい

INDEX|1ページ/5ページ|

次のページ
 
雨が降っている。
宝生蝮は正十字騎士團京都出張所の廊下に立ち、窓から外を眺めていた。
格好は仏教系祓魔師としてのもの。京都出張所深部での仕事を終えて、ここまで上がってきたのだった。
廊下には蝮以外はだれもいない。
だから、自宅にいるときほどではないものの、気がゆるんでいた。
眼がひかれるままに雨を眺めていられる。
窓の外には庭がある。草木や庭石、灯籠などが趣ある景色となるよう配置され、また、よく手入れされた庭園である。
その景色が降りしきる雨のせいで白く煙って見える。
草木の緑が雨に打たれている。
降る雨は冷たい。
初秋の雨。
冷たいのは雨だけではない。
空気もひんやりとしている。
影の落ちた廊下の冷たさが足袋をはいていても伝わってきて、肌をのぼってくる。
しばらくすれば、あの緑は色を変えるのだろう。紅葉してゆくのだろう。
それはそれで見応えがある。
眼前の景色を楽しみながら、その景色が変わるのを心待ちにもする。
耳の中は雨の降る音ばかり。
雨音も、好きだ。
蝮は日常を忘れ、ただ、窓の外を眺め、雨音を聞く。
「雨、好きなんやな、おまえは昔っから」
ふいに、人の声が聞こえてきた。
蝮はハッと我に返った。
耳になじみのある声。
確認しなくてもだれなのかわかるが、それでも、蝮は声のしたほうを見る。
志摩柔造、だ。
タレ眼の顔には穏やかな表情が浮かんでいる。
いつのまに、こんなに近くまで来ていたのだろう。
柔造は上二級仏教系祓魔師で、騎士と詠唱騎士の称号を取得していて、気配を殺すこともできる。
しかし、そうであっても、やはり近づいてくる気配に気づきたかった。
自分はぼんやりしすぎていた。
悔しいような気分になる。
だが、そんな想いは自分の内にとどめ、蝮は冷たい表情を柔造に向ける。
「雨を見てたんと違うわ。外に異常がないか確認してただけや」
「そのわりには、なんや、楽しそうな顔しとったぞ」
柔造はからかうように言った。
蝮はわずかに眉根を寄せる。
楽しそうな顔をしていたのか、自分は。
他にだれもいないと思っていたとはいえ、気を抜きすぎだ。
ふと、柔造が足を踏みだした。
距離が縮まる。
廊下には自分たちしかいない。
それを意識すると同時に、蝮は口を開く。
「そんなん、知らへんわ」
突き放すように言ってすぐ、さっと踵を返した。
これ以上は話をするつもりはない。
そう思っていることが伝わるように、ピンと張った背中を柔造に向け、廊下を進む。
どんどん離れていく。
しかし。
背中に、気配を感じた。
近くにいる。
近づいている。
それに気づいて、慌てて対処しようしたが、もう遅かった。
背後から伸びてきた力強い腕に捕らえられる。
抱きしめられる。
「蝮」
「なにするんや……!」
すぐそばから低い声で名を呼ばれて、蝮はいっそう焦った。
「放してッ!」
けれども、次の瞬間、足が床から離れていた。
抱きあげられていた。
そして、そのまま柔造は歩きだす。
近くに襖の開いている部屋があって、あっというまに、その部屋へと進んだ。
だれもいない部屋。
そこに入ると、蝮は畳におろされた。
さらに、ピシャッという音が聞こえてきた。
柔造が襖を閉めたのだ。
作品名:恋わずらい 作家名:hujio