水底にて君を想う 波音【2】
体を起こし、隣を見れば皆本が苦しげに身を縮めている。
賢木はそっと、その首筋に触れる。
(あれが、お前の未来……)
生体コントロールを使って、緊張している皆本の体をほぐしてやる。
汗ばんだ首筋を少し撫でて、今度は頬に触れる。
次に髪。
「……さ…かき」
僅かに開かれた瞳は、焦点が合っていない。
眼鏡がないのでまともに見えていないのだろう。
今の賢木にはそれが有り難い。
どんな顔をしているか、自分でも分からない。
だが、きっとひどい顔をしている。
「ここにいる。……俺は、ずっとそばにいる」
優しく囁く。
皆本は安心したように笑うと、スーっと息を吐いて眠りに落ちた。
今度は安らかな顔をしている。
『愛してる!!』
悲痛な叫びが蘇る。
それは確かにあの二人のものだ。
賢木は大きく息を吐き出す。
もう一度、皆本の頬に触れる。
起きる気配は無い。
『愛してる!!』
また、胸の奥で繰返される。
まるで、自分自身の叫びのように。
激しく波立ち、泡立つ。
何かが、押し込めてあったはずのものが、出口を求めて荒れ狂う。
「……皆本」
押し殺した声は、誰にも届かない。
眠る皆本にも。
「……っ」
賢木はそっと、皆本の唇に触れた。
声にならない想いとともに。
作品名:水底にて君を想う 波音【2】 作家名:ウサウサ