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みっふー♪
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novelistID. 21864
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おじちゃんと子供たちのための不条理バイエル

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×月×日(つづき)

(……)
――そーいやおじちゃん、騒擾行為(公共の場で無許可のフォークひきがたり)であの公園追ん出された設定だったっけ、しゃぼん玉大会からの帰り道、おじちゃんに貰った大量の賞味(←ココ重要)期限切れすこんぶ食み食み、私はふと思い出した。
……あれからあーなってこーなってそーなって諸々うよきょくせつ、そんでおじちゃんぶじ公園に戻れたんだったよなァ、ぱっつんだって連日街頭に立って署名活動とかいっしょーけんめいやってたのに、それが現状この一方的国交断絶の原因は何なのか、いくら愛らしいおだんご頭を傾げてみても私にはさっぱり解せなかった。
「ただいまー!」
家に帰ると、なんだかじむしょ部屋の空気が重かった。
「……」
床に伏せて耳を垂れていたサダちゃんが片目を開けて私を見た。
「――おかえり」
ぱっつんはやたらしゃっきり背筋を伸ばしてソファでお茶を啜っていた。
「……。」
湯呑みが置かれた対面の席で、天パを俯かせた銀ちゃんがどんよりじめじめしていた。
「銀ちゃんまた大穴に突っ込んで玉砕したアルか?」
社長机の上でもみくちゃにされた新聞を見ながら私は訊ねた。銀ちゃんは答えない。合いの手くらい入れそうなもんなのに、他人事みたいに澄ました顔でぱっつんも何も言わない。
「……」
私は動かない銀ちゃんの後ろ襟から未開封のすこんぶ小箱をダバダバ流し込んでみた。反応はない。ぱっつんも特に止めようとしない。
「…………」
私は開封済みの箱の底に残っていたすこんぶの粉を、銀ちゃんの天パにパラパラふりかけてみた。
「……俺の人生なんて、すこんぶの粉と同じさ」
銀ちゃんが不意にぼそりと呟いた。地の底にタマシイが引き摺られるような、悲痛に満ちた暗い叫びだった。
「すこんぶ本体がなけりゃ何の役にも立ちゃしない、しょっぺぇ残りカスなのさ」
――はは、ははは、己で己をせせら笑うように銀ちゃんが言った。
「そんなことないヨ!」
私は即座に否を表明した。両手で覆っていた顔を上げて銀ちゃんが私を見た。まるで地獄に救いのじょろうぐもでも見るような眼差しだ。――ふぅ、私は肩に息をついた。
「どっちかゆーと銀ちゃんはすこんぶの外装フィルムのぺりぺりぺりーって剥がすとこの、ココですよーってしるしのアレだよ、いっぺん爪かけて剥いじまったら何の使い道もないヨ!」
誓ってもいい、私は当座一切の偽りも虚飾も持たなかった。ありのままを率直に述べたに過ぎない。
「……」
うるうるきらきらしていた銀ちゃんの表情がたちまち混沌色に歪んだ。――あふっ、サダちゃんが後ろを向いて欠伸した。湯呑みを持つぱっつんの肩がくすりと揺れた。
「何がおかしーんだよッ!」
銀ちゃんが声を荒げた。ぱっつんはことさらゆったりとした仕草に湯呑みを置き、眼鏡の蔓に手を添えて鼻先に息を漏らした。
「別におかしくはないですよ。……ただ、本当のこと言われてキレるなんて、さっきから随分大人げないって言ってるだけです」
「おっオマエっ!!」
ソファを蹴って立ち上がった銀ちゃんは握った拳をわななかせた。こめかみにも前腕にもくっきり青筋が浮いている。
(……。)
――いくら大人げないっつってもいきなり鉄拳制裁ってのはなァ、けど、ありゃ見たとこぱっつんの方もだいぶ荒んでますしィ、……ま、いざとなったら私が二人まとめてノシちゃればいっか、私はそのまま事の成り行きを見守ることとした。
どんだけ銀ちゃんにガンクレられても、ぱっつんは微塵も動揺を見せなかった。むしろ銀ちゃんのガンタレを眼鏡のレンズに照り返して、腹の底から開き直っているらしかった。
「……」
テンパっていた銀ちゃんがテーブルにがくりと手を着いた。私は急いでお茶を避けた。見たところ飲みかけではないようだったので、覗き込んだ手元を傾けてすこんぶのしょっぱさで乾いた喉を潤した。
「――お前はも少し大人だと思ってたよ……」
天パを垂れた銀ちゃんが絞り出す声に言った。ぱっつんは表情を変えない。変えないんじゃなくて、あれはもう凝り固まった透明な何かが顔面に張り付いているんじゃないか、私は思った。
銀ちゃんは途切れ途切れに言葉を続けた。
「……いくら本当のことでもなぁ、そこは触っちゃいけないって、お互いなあなあで行きましょーやぁって、ヒトとヒトとはさーやって支え合って生きてんでしょーがァァ!!!」
感情が高ぶりすぎたのか、肝心なところで銀ちゃんは噛んだ。無論ぱっつんはニコリともしない。
「……。」
銀ちゃんの捨て身のギャグは不発に終わった(もっとも、あとで聞いたらギャグでもなんでもなくてフツーに噛んだだけらしいが)。
湯呑みに残っていた茶を飲み干してぱっつんが言った。
「……それが大人だっていうんなら、そんな大人にボクはなりたくはない」
ぱっつんは威風堂々、立ち上がると盆の上に湯呑みを載せた。私の方にも手を差し出されたので、私は空になった湯呑みをぱっつんに渡した。
「これ片付けたら帰ります」
ぱっつんは面でも取り替えるように姉御譲りの完璧に作り込んだ営業スマイルを浮かべると、盆を持って台所に下がった。
「……」
銀ちゃんはテーブルに腕を支えてよろよろ身を起こした。伝い歩きに近付いた机の上のけいばしんぶんをきれいに伸ばして畳み直す。
私は口直しのすこんぶを食もうとしたが、全すこんぶを銀ちゃんの背中に突っ込んでしまっていた。どうやら銀ちゃんはそのことにも気付かないほど呆けていたらしく、晩方風呂に入る段になって脱衣所でギャッとなっていた。