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みっふー♪
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おじちゃんと子供たちのための不条理バイエル

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×月×日(つづき2)

晩ゴハンもすんだしお風呂も入って歯も磨いたので、着替えたパジャマの上に上着を羽織って、オキニの枕だけ持ってぱっつんの家に行くことにした。
――今日泊まってくるね、つったら絶賛ココロ此処に在らず中の銀ちゃんが生返事だったので、念のため下に降りてまだむにも断りを入れておいた。
カウンター席で袂に腕を組んで煙管をふかしているまだむに、ここんとこのぱっつんのらしからぬ行状を説明したところ、何とはなしに察してくれたようだった。
さっすがまだむ! ……ウン、なんかココで気の利いた事言おうとしたらシモ系しか浮かばなかったので以下自粛。
で、月夜の道をじまんのカモシカ脚力急便でダーーーっと行ってピャーーーッと行って、
――ピンポーン!
呼び鈴を押したらすぐに姉ゴが出迎えてくれた。前もってまだむがでんわを入れといてくれたらしい。……っとにもー、地味メガネの誰かさんときたら、自分がそーとー甘やかされてるってことにいい加減気付いた方がいいと思うアル。
居間に通されると、ぱっつんはほけーーーっと、見るとはなしにテレビを見ていた。
「――おじゃましまーーーっす、」
襖を開けて入って来た私に生気のない視線を移すと、
「何しに来たの?」
ぱっつんが言った。
「別に」
私はぱっつんの隣にすとんと腰を降ろした。「たまにはヨソん家の客用ふかふか布団で寝たいなーって」
「……そう」
ぱっつんはそれ以上何も訊ねずにテレビ画面を眺めていた。私も何も言わなかった。番組終わりのテロップが画面下をすごい速さで駆け抜けていく。
「――ボクもう寝るけど」
立ち上がってぱっつんが言った。私の方は一度も見ない。
「テレビでもゲームでも、姉上がいいって言うんならいくらでも使っていいよ」
「……シンちゃん、」
戸締りを確認して戻って来た姉ゴが、出て行くぱっつんを引き留めようとした。
「イイです」
姉ゴの方を向いて私は行った。
「私、本当にふかふか羽根布団で寝るためだけに来たんで」
「……そぉお?」
姉ゴは困ったわねという仕草で頬に手を当てた。
「おやすみなさい」
ぱっつんは襖を引いて出ていった。
「どうするかぐらちゃん?」
姉ゴが私に訊ねた。
「布団敷いちゃってください」
私は答えた。
「あと、夜食はぜったいに出さないで下さい、今出されると食欲抑えられる自信ないんで」
「わかったわ」
襖を閉めると姉ゴは居間を出て行った。私はひとり、ぽつんと畳の上に正座していた。半端な時間なので、テレビにはさっきから繰り返しぱちすろとほうりつそうだんのCMばかり流れている。――食べ物のCMが映る前に、私は急いでリモコンを探すと電源を切った。
テレビの音も消えてしまうと、部屋の中はいよいよしんと静まり返った。
(……。)
――何やってんだろうなァ、ため息まじり、私は自問した。ちょっとばかしぱっつんの様子がおかしいからって、そりゃダチはダチだけど、ここまでする必要があったんだろうか、どうせ思春期故の理由なき反抗に決まってんだもの、放っておいてやればいいと思うのに、そのつもりだったのに、放っておいても過保護に構っても、なんでこんなにお腹の底がむかむかするんだろう。
「――かぐらちゃん」
姉ゴが居間に戻って来た。
「お布団、ちょうど今日の昼間に干しといたのよ」
にっこり笑って姉ゴが言った。そーいえばきゃばくらのばいとがたまたま休みなのもすごいぐーぜんですね! 棒読みに言い掛けて私ははっとした、――違うヨ! 私知ってたんだヨ! 姉ゴのシフト表なんか最初からばっちり把握してたんだってば!! ……ウンきっとそーいうことに違いない、私は自分で納得した。
枕を抱えて姉ゴの後をついて行く。途中でアレッ?と思ったら、姉ゴが案内してくれたのは客間じゃなくて姉ゴの自室だった。
「たまにはお泊まり女子会ってのもいいでしょ?」
襖の前で楽しそうに姉ゴが振り向いた。
「女子会……」
その魅惑の響きに、私の意識はほうっと熱らされた。巷で噂に聞くアレはこじゃれた古民家改装居酒屋かなんかで、そりゃもうエゲツない大暴露大会がデフォらしッスが、……でもまぁ、こういうしんみりこぢんまりした趣も悪くない。
「そんじゃお布団お借りしまーーーすっ」
上着を脱ぎ捨て、枕を抱えて布団の中に潜り込む。ふかふかのお日様の匂い、幸せの匂い、……炊き立てのゴハンの匂いの次にだけど。
鏡台の前でぺちぺち念入りに美容液を塗り込みながら姉ゴが言った。
「シンちゃん、私の前じゃ猫被ってるから」
「……」
私は黙って聞いていた。独り言みたいに姉ゴは続けた。
「それでね、銀さんやかぐらちゃんのところで発散して、何か困らせてんじゃないかって、前々から気にはしてたのよ」
「困らせるってほどじゃないヨ、」
私は姉ゴに答えた。そういう意味じゃ、私と銀ちゃんの方がよほどぱっつんに迷惑をかけているに違いないのだ、本人の前じゃ絶対認めないし、墓場に片足突っ込む寸前まで謝罪するつもりもないけど。
「シンちゃんね、きっと自分でもわかってるはずなのよ」
鏡台から視線を向けて姉ゴが言った。私は掛け布団から半分だけ目を出している。
「……、」
姉ゴの表情がふっと柔らかくなった。
「でもね、こうやって今日のかぐらちゃんみたく、ときどきそれをちゃんと思い出させてくれる人がいると、ずいぶん救われると思うの」
「……」
私は布団の中から何かを言おうとした。けれど声が喉のところですっかり渋滞してしまってだめだった。
「……おやすみなさい」
やっとそれだけ言って私は頭まで布団を被った。眩しいお日様の匂いがツンと目の奥に沁みた。