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みっふー♪
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おじちゃんと子供たちのための不条理バイエル

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「ちっ、違うんだよォォォ!!!」
おじちゃんがわっと掌に髭面を覆った。雨の日も風の日も着倒して布地の擦り切れた半纏の肩を震わせておじちゃんは訴えた。
「……何か気の利いたことを言わなきゃ、言わなきゃと思うほど、おじさんってのはしょーもない下ネタかダジャレしか頭に浮かばなくなるモンなんだよぉぉぉ!!!」
おじちゃんは机に伏せて号泣しだした。
「……」
ため息をもらしてぱっつんは言った。
「どうしてそんな、ボクの前でカッコつけようとするんですか」
「……えっ」
おじちゃんが鼻水まみれの顔を上げた。苦笑しつつも柔らかい口調にぱっつんは続けた。
「そりゃ、そういうマ夕゛オさんも見てて微笑ましいけど、応援したくなるけど、ボクはもっと、全力でダメダメなマ夕゛オさんでも全然いいと思うんです」
「――シンちゃん……!」
おじさんはずぶびびと豪快に鼻を啜った。……これ以上、一体何を求めるというのか、既に十分すぎるだろう、私にはぱっつんの限界とやらが見えない。
「……いいやダメだ、それはダメだよいけないよっ」
おじちゃんは激しく頭を振ると、思い出したように机の上のコップを煽った。
「――!!」
たちまちおじちゃんの顔面が青ざめる、左党寄りのおじちゃんには激甘すぎたようだ、うっくと口元を押さえながらおじちゃんは語った、
「……いいかいシンちゃん、おじさんのダメさデフォルトを侮ってはいけない、ダメでもイイなんて面と向かって言われてごらん、その瞬間からおじさんはもはやヒトですら有り得ない、ヒトのカタチを借りた別物の何かに成り果ててしまうんだ」
――だから傍目にどんなに痛々しくても、無理してカッコつけてるくらいでちょーどバランスが取れているのさ、おじちゃんはしみじみ言った。
「……そうだぞ、」
端の方から恨みがましく天パが同調した、「そうやって日々を必死に生きてる人間が一瞬呼吸困難に陥って立ち直れなくなるよーなヒドイことを、昨日のオマエはサクッと俺に言ったんだぞ、」
「スイマセン」
ぱっつんがしゅんと頭を垂れた。「……てゆーかボク、しょーじき言うとあのとき頭に血ィ上ってて、自分が何言ったかあんまはっきり覚えてないんスけど……」
考え込むように首を傾けてぱっつんが言った、
「とにかく何かすごく、触っちゃいけないトコをどストレートで突いたなぁって……たしか、――そうだ、そもそも黒毛和牛は無造作に屋外放牧なんかしないんで――」
「わぁぁぁ!!!」
銀ちゃんが天パを毟って奇声を発した。顔色がどす黒いし、変な汗もかいている。
「……そーいや銀ちゃん、この頃焼き肉屋の前通るたびにどんより回れ右してものっそ遠回りして帰るネ、ちょっと前まで換気口の前で嬉々として煙浴びてたのに」
思い出して私も言った。
「そうそう、それに――」
ぱっつんがまた何か言い掛けようとした、
「いーからオマエらいま俺の前で牛の話はやめろ、」
銀ちゃんが血走った眼で呼吸も荒く天パを掻き毟った。おじちゃんがぽんと手を打った。
「ところで銀さん、格安で牛一頭買いのごーせいな焼き肉パーティ、いつだったか俺もその会に呼んでくれるって……」
「やめろっつってんだろがァァァ!!!」
――ぐしゃぁ!! 銀ちゃんは持っていたいちごカートンを握り潰した。ダラダラ床に零れたいちご牛乳を見て、――ああああチックショーあと一杯分はカクジツに残ってたのにぃぃ!!! 自分でやらかしといてこの世の終わりみたいな情けない顔になりながら、なお感情を立て直してこちらに凄む。
「……ケッ、霜降りだァ?! あんな脂身ギトギトの身体に悪そーなモン、有難がるヤツの気が知れないね! 時代は高タンパク低カロリーのヘルシー志向ですよッ」
「……。」
ぱっつんと私とおじちゃんはひとり気炎を吐く銀ちゃんを見た。衆目注視の中、ドヤ顔で銀ちゃんは言った。
「わっかんねーかな、馬→牛と来て芸なく馬に返り咲きするわけねーだろ、次代のトレンドはダチョウだよダチョウ!」
「…………。」
ぱっつんは、どうやらそれで昨日の話の流れを完全に思い出したらしかったが沈黙を保っていた。
「ダチョウ……?」半纏に腕組みしておじちゃんが呟いた。「七面鳥……はクリスマスか……」
「くすりますにステーキが食べられるんだったらなんでもいいアル」
半分投げやりに私は言った。――そーだろそーだろ、銀ちゃんは途端に機嫌がよくなった。
「よっしオマエら、とにかくそーいうことだから、クリスマスのダチョウステーキ目指して今日もお仕事がんばろーーー!!!」
「わふっ!」
サダちゃんだけが景気よく吠えた。そんじゃまず手分けしてビラ配りからな、銀ちゃんが社長机の下からいそいそチラシの束を取り出した。
「……いつまでたっても初歩の初歩アルな、」
そろそろ仕事選べるくらいお得意さんついても良さそうなのに、割り当て分のチラシを受け取りながら私は呟いた。
「バカおまえ何事も初心忘るべからずだろ、」
――慢心する隙もなくてありがてぇ話じゃねぇか、銀ちゃんはなぜか大威張りだ。
「……そーいやじきクリスマスかぁ……楽しみですね!」
チラシの束を揃えながらぱっつんがニコニコして、↑的なことをデレデレ言っていた。おじちゃんも、――んっ? とかなんとか、グラサンで表情が読めないのをいいことにすっとぼけている。
銀ちゃんは銀ちゃんでさっぱり全然懲りてない様子で、一坪牧場主権利書を手に、取らぬダチョウの鳥皮酢算用をウハウハ始める始末、……全く以てこの部屋に集っている男どもときたら、キリっとしてるのはサダちゃんのぶっといまゆげくらいのものであった。


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