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おじちゃんと子供たちのための不条理バイエル

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【別冊】twinkle star〜キミは僕の一番☆



それはかつて人々に“しろいまけん”(どっかで聞いたよーな……)と恐れられた、ある一匹の巨大な宇宙犬型生物の物語です。
人目を避けて棲み処にしている深い森の崖の上で、今日もわんこは頭上を行き交う宇宙船に向けて威嚇の雄叫びを上げていました。
誰が憎くて、この張り裂けそうな胸の内を、一体誰に聞いて欲しいのか、それはわんこにもわかりませんでした。ただただ、――ボクはここにいるよ! 空を見上げて叫ばずにはいられないのでした。
『いい加減、ヒトに対する執着は捨てたらどうだい?』
――彼らに捨てられ追われて、それで行き場を失くしてここに逃げ込んできたんじゃないか、肩を落としてねぐらに戻って来たわんこに、同じく森で暮らす白い着ぐるみ生物がプラカードを掲げました。
わんことは白ガワ同士でキャラがカブるので、日頃何かと張り合っている仲なのですが、たまにこうしててつがくてきかいわを嗜むこともありました。
「わうわうっ!」
ほっといてくれ、尻尾を立ててわんこは言いました。
『やれやれ』
プラカードを持つ肩を竦めて着ぐるみは去っていきました。
降る星の瞬き以外、静まり返った木立の奥でわんこはもふもふの白い毛皮に鼻面を埋めて眠りにつくのでした。


+++

丸い月が明るく照らすある晩のことでした。
いつものようにわんこが遠吠えしている崖の真横を、超低空飛行で悠々とすり抜けていく一隻の巨大戦艦がありました。
――ゴウンゴウン、静寂の森を震わす耳障りな振動音を打ち払うように、全身の毛を逆立て、わんこは激しく吠えました。
そのときでした。
呻り声を立てながら腰を低くし、飛び移らん勢いで甲板を睨み付けるわんこの視界に、黒光りする鋼鉄の板上にすっくと立つひとりの少年の姿が映りました。
赤毛のおさげをなびかせて彼方を見据える少年の群青の瞳は静かに熱く燃えているようでもあり、またすべてを拒絶して冷たく乾いているようにも見えました。
「――、」
わんこは一瞬、呼吸を忘れて見惚れました。それはもう、運命の出会いとしか言い様がありませんでした。
高度を上げていく船影に少年の姿は紛れて消えました。
その日以来、わんこの頭の中で宇宙船の上の赤毛の王子様(※イメージ先行)の記憶は決して薄れることがありませんでした。
わんこは毎晩崖の上に立って王子様を待ちました。雨の日も風の日も、けれど王子様の船は一向に現れません。
わんこは諦めませんでした。もう一度、どうしても王子様に会いたくて、そうして幾日待った夜のことでしょう、暗い夜空に、煙を吐いて落ちてくる巨大な船が見えました。間違いない、あの王子様の船です、
「!」
船の側面から、小さな救命艇が何艘も慌ただしく緊急発進してゆきます。わんこはぴんと耳を立て、気配を探りました。
――あの人はきっと最後まで船に残る、
わんこには確信めいたものがありました。落下地点を目指してわんこは駆けに駆けました。
――ゴォォォォン!!! 
山肌を削り、森を薙ぎ倒して傾いた船の舳先が湖に突っ込みました。鋭い爪で急ブレーキをかけたわんこは躊躇なく水面に身を躍らせました。
湖面に映る火影が一心に水を掻くわんこの鼻先でゆらゆら揺れました。濡れた毛皮の下で脈打つ心臓は早鐘のようでしたが、わんこは少しも怖くありませんでした。
船体から漏れ出た燃料伝いに迫る炎の傍で、救命艇の残骸らしきものに捕まって浮いている王子様(わんこ目線)が見えました。
「……やぁ、キミか」
半分水に浸かりかけていた王子様の鼻面で押し上げたわんこを見て、王子様がにっこり笑いました。
「いつだったか、月のきれいな夜だったかな」
「わふっ!」
――もうしゃべらないで、王子様が自分を覚えていたことに止めようもなく鼓動が高まるのを感じながら、わんこは感情を押し殺し、王子様のチャイナ上着の襟元を咥えて背中に引き上げ、陸に向かって泳ぎ出しました。
岸に着いて振り返ってみると、僅かに船首を突き出す格好の船の周りを、燃え盛る真っ赤な炎が幾重にも取り巻いていました。
王子様を岸から離れた草の上まで引っ張っていくと、わんこは身震いして毛皮の水滴を落としました。
「……きゅうううん、」
わんこは王子様のぺろぺろ舐めましたが、気を失っている王子様は目を覚ましません。わんこは一晩中、王子様にぴったり寄り添って身体を温め続けました。
やがて東の空が白み始めたころ、それまでわんこの腕枕でぐったりしていた(ように見えた)王子様が、
「……うーん、」
寝返りを打ってブン回した腕がわんこの鼻面を思きしブチました。
「――!」
うつらうつらしかけていたわんこはぎゃっと鼻先を押さえました。王子様はすやすや平和そうに眠っています。
「……、」
わんこは肉球でかたく鼻先と口元を覆って声を抑え、泣きたいような、そのへんをわんわん吠え回りたいような衝動に駆られました。
――良かったもう大丈夫、……思えばなぜにあのときあそこで王子様の傍を離れたりしたのか、気が緩んでほっとして、そうだ王子様が目を覚ましたときに何か食べるものでも、全ては王子様のために、自分が良かれと思ってやったことです。悔んだり恨みに思ったりしてもいまさら詮無いことでした。
結果王子様は、自分の命の恩人が以前月夜の晩に出会ったあのわんこだということをすっかり思い出しもしませんでした。
湖に不時着した自分を介抱してくれたのは、たまたまぐーぜん漂着物のおたから狙いで湖畔を通りがかった住所不定のグラサン髭おじさんだと勘違いしてしまったのです。
――いっ、いいや自分はホント違いますからっ、
おじさんは何度も何度も、王子様の思い込みを正そうと努めましたが、脚本・主演・演出全部俺タイプの王子様はゼンゼン聞いていませんでした。
そのまま強引におじさんを押し切って、幹部候補で自分の新しい船に迎えることまで決めてしまいました。
「……。」
おしゃべりな小鳥たちの噂話でそのことを知ったわんこの胸中は如何ばかり、
――違うよ王子様を助けたのはボクだよ!
きゅうんきゅうん、わんこは夜ごと天の星を見上げて鳴き続けました。いまではわんこの姿と魂はお空に昇って“しろいぬ座”と呼ばれています。(CASE1)