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みっふー♪
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おじちゃんと子供たちのための不条理バイエル

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昼間グラサンおじさんと話した街を見下ろす丘の上に、おさげ少年と連れ立ったわんこは並んで腰を降ろした。
日頃おじさん探しのルート上でチェックしといてゲットした飯店廃棄の賞味期限切れ肉まんを分け合いつつ、にーちゃんはわんこに語りかけた。
「君と他人じゃなくなったのはちょっとした運命の悪戯だったけど」
「……」
わんこは冷めた肉まんに齧り付いた。肉まん片手に、おさげにーちゃんはしみじみ言った。
「でもね俺、キミとなら案外うまく行くよーな気もしてたんだ」
「……」
わんこはもそもそ肉まんを喰らった。場を持たすためというか、味は二の次だった。新しい肉まんに手を付けておさげにーちゃんは続けた。
「キミは俺にキョーミがないし、俺も君が何考えてるのかさっぱりわかんないし……」
「……」
にーちゃんは胸に抱えた袋から追加のまんじゅうを出してわんこの前に置いた。
「そういう、互いが互いに干渉しない、割り切ったオトナの関係もありかなーって」
「わふっ!」
まんじゅうをひとくちに飲み込んでわんこが吠えた。
「ああ、ゴメンそっちピザまんだった?」
にーちゃんが半分割って中身を確かめた肉まんを置いた。わんこは大口開けて噛みついた。
「おかしいよね、食事のときだけは通じ合うみたいだ」
肉まんのあんを唇の脇に付けたにーちゃんが愉快そうに笑った。わんこは目を逸らした。
にーちゃんが笑い終わると、しばし無言の空間の中にふたり肉まんを食む音だけが響いた。
「別れよう、俺たち」
にーちゃんが言った。タイミングが唐突過ぎるとかはこの際問題ないはずだった。
「……」
わんこは肉まんを咀嚼し続けた。固くなった皮を噛み締めて、かろうじて申し訳程度に滲み出る肉汁がわんこの喉を通り過ぎていく。
「――、」
わんこはにーちゃんを見た。にーちゃんが手を突っ込みかけた袋の中に残りは一つ、
「ああ、そーだね慰謝料代わりだ」
にーちゃんはそう言うとわんこにラスイチの肉まんを差し出した。もう間をもたす必要はない、ピザまんでもあんまんでもない、確かに肉まんのそれをひとのみにしてわんこは吠えた。
「わふっ!」
「書類はこっちで用意してあとで郵送するよ」
常と変わらぬ様子でにーちゃんが言った。
「……、」
――へぶっ! 頷きかけてわんこは途中でくしゃみした。
秋の日暮れは早い。さっきまで夕焼けの色だった空はもう紺色の薄膜に覆われかけている。
「ダーリン寒いのかい?」
――おっともうダーリンじゃないんだっけ、カラカラ笑ってにーちゃんが言った。けれどにーちゃんの手はわんこの背中に置かれたままだ。
「……」
ぶっとい眉を顰めて、わんこは一つ息を吐いた。
「――お、」
にーちゃんが間の抜けた声を上げた。にーちゃんの幅広袖の肩口にわんこの重みがずしりとかかる。
「甘えてくれたの初めてだね」
背を震わせて笑うにーちゃんのおさげがくすぐったくて、わんこは鼻のあたりがムズムズした。
……たとえ飼い主の兄であっても最初は本当にただの他人で、それが成り行き上の手違いでいつの間にか籍入れられて、ダーリンなんて呼ばれても迷惑以外の何物でもなかった、こうして元の他人に戻れて気持ちはいっそ清々しいはずなのに、
「――ほらダーリン一番星、」
肩を寄せ合うおさげにーちゃんが指差す空に瞬く輝きは、そのときなぜかわんこの目に熱く滲んで見えた。