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リスティア異聞録 1章 ヌルはなぜ殺した

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人の心は争いを好まない。
しかし、人は争わずにいられない。
故に幸福である。


ここは剣と魔法の世界。名をリスティアという。
この大陸はそこに住む人間の都合で三つに切り取られていた。

ユニオン。リスティア北方に広がる騎士の国。古くから剣の聖女を信奉するこの国は、勇敢で誠実な騎士であることを誇りとし、義に背く事を恥とする。若き王レオン・フリードが国を治める。

アヴァロン。リスティア南西に位置する迷いの森の更に奥、辺境に潜む魔法の国。偉大なる魔女テレジアを粗とし、魔法信仰を色濃く残すこの地は自然との調和を重んじる気風がある。女王ミューズ・クロムウェルが国を治める。

ログレス。リスティア南東に位置する深き山々に囲まれたリスティアの古き王国。暴君アルスの圧政により、長く民が虐げられていたが、騎士ファウザルの起こした謀反により、革命が成し遂げられた。現在は、その功績から彼の騎士が王位を継承。ファウゼル・ウォルド・ログレスを名乗り国を治める。

この三つの国が大陸の覇権を競い、いつ終わるとも知れぬ不毛な争いを繰り広げては、大陸を血で染め抜いていた。この争いが大陸を自らの色で染めることを目的としているのならば、大陸はとっくの昔に血の色が染め抜いていた。大陸の覇権などという訳の分からないものは血にくれてやれば良かったのではないかと誰もが考えていた。しかし、坂道で落とした毬が持ち主の気持ちなど知らずに転がり続けるように、一度始まった戦争は人の手を離れ勝手に続いてしまっていた。人は血に濡れた土に作物を植え、血の流れた川で服を洗い、血に染まった石で新たな血を流すための刃物を鍛える生き物だ。血で溢れたドブに浸かってチューチューとあいくるしい声をあげるドブネズミ。それが人間なのだ。故に、人は人の真理として争いをやめることが出来ない。真理から目を背けた心という名の屑籠はいつでも争いを好まないと書かれた綺麗な紙で溢れている。故に人は幸福なのだ。