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リスティア異聞録 1章 ヌルはなぜ殺した

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アヴァロンにひとりの奇妙な男が居た。その男はいつもローブを着てフードを目深にかぶっていた。その男が「騎士団長」だと名乗っても誰も信じないだろう。良いところ魔導師、占星術師といったところだ。

「女王にお目通り願いたいのだけれどもね。新たに騎士を叙任してもらいたくてね。」

勿論、城の衛兵もそのように思った。

「なんだぁ? 騎士団長の真似事か? こっちは忙しいんだ!帰った、帰った!」

男は食い下がる。

「いや、真似事ではないのだけれどもね。今までにも数は少ないけれど騎士を戦場に送っているし。謁見の願い自体は大分前に出しているのだけれども。騎士団の名前はライオット 叙任させたいのは以下、四名。ヌル、アイン、フィーア、ノイン」

男はそう言いながら騎士団証を懐から取り出した。

「ライオット? 確かに聞いたことは有るな。騎士団証は確かに本物のようだが……しかし……」

衛兵はまだ疑わしそうにキョロキョロとしている。キョロキョロと動かした目の先に奇妙な光景が飛び込んできた。思わずギョッとした。男の後ろに整列している4名の少女。その少女達は全く同じ顔をしていた。全く同じとは語弊が有るかも知れない。少なくとも衛兵には全く同じように見えた。綺麗にまとめられた銀髪、お揃いの赤いリボン、透き通るように白い肌、能面のように何も読み取れない表情、光の無い瞳、血の通っていない唇。全員が全員、そのような顔をしていた。まるで人形であった。彼女達はいずれもアヴァロンの正式な戦乙女の衣装を着ていた。

これが後に他国の騎士団に恐れられる「ヌル隊」である。
「ヌル隊」についてユニオンの騎士団にこの様な記録がある。

「アヴァロンの騎士団に同じ顔をした4人の戦乙女の部隊がある。戦場で出会ったら構わず逃げろ。奴等は、自ら毒を食らい血を吐きながら進軍を続ける。目の合った相手を仕留めるまで追い続ける。たとえ、その腕を落とされようとも。たとえ、その目を焼かれようとも。捨てられた人形が主を求めて夜毎歩き回るように……」

「どうやら、間違いは無いようだが……」
間を持たすように衛兵が呟いていると女性の怒号が響く。

「衛兵! 何をしている。そちらはライオットの騎士団長だ! 早く通せ!」

アヴァロンの女王ミューズである。予定時刻を過ぎても訪れない客人の様子を見に来たようだ。

「ああっ、失礼しました。騎士団長殿ッ!」

衛兵は敬礼をすると、そこを通してくれた。
その奇妙な男はやっと疑り深い衛兵から解放されてミューズと共に謁見の間へ向かう。
謁見の間への道すがら、こんなやりとりをしていた。

「ヌルにアインにフィーアにノインだったかしら、珍しい名前ね?」
「異国の数字ですね。0と1と4と9という意味です」
「ふーん。変わった趣向ね、飛んだ番号はどうなったの?」
「10までの間ならば2と6は生きています」
「いくつまであるの?」
「今のところは20まで」
「そう。」

一行は謁見の間に通される。しばらくするとミューズが別室から現れ、豪奢な作りの玉座の前に立つ。

「ヌル、こちらへ」

ミューズの声に従い、ヌルがその前に跪く。

「ライオットのヌルよ。アヴァロンの女王は貴方を新たな騎士として任命します。このリスティアを平定するため今後も良き成果を上げることを期待しています。」

同様にして4人分の叙任が終わり、正式にライオットの部隊としてヌル隊が配属されることになった。ここに「ヌル隊」が誕生する。