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このゲームには刺激が足りない

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コンコンコン

眠り続けていた獏良の耳に、小さなノック音が届いた。深く眠っていれば気付かないような音であるが、彼はすぐに目を開けるとベッドから静かに起き上がる。寝起きでいかにも眠そうな表情の獏良だが、ベッドの正面に位置するドアを見つめる瞳に微かな力が篭った。
ふいに、今まで薄暗かった部屋が音もなく明かりを灯した。照らされた部屋は曇りのない白。一見すると病室のようにも見えるが、無機質なそれとは違う確かな温もりを感じられる。

そっと白いドアの前に立つ。まだ訪問者がそこにいることを確認すると、獏良は思いきりそのドアを開いた。


ガゴッ!!!


「今度は何をやらかしたの?」
顔面にクリーンヒットしたらしい訪問者が呻き声を上げて蹲っているのを気にも留めず、獏良はその襟首を掴んで引き上げた。口調は大変優しげなものだが、動作がそれに伴っていない。表情を窺っても、微かに微笑んでいるのは口元だけで目は全く笑っていなかった。

「待て待て待て、時に落ち着けって宿主」
「言い訳は来世で聞いてあげるから、今は大人しく死んどきなって」
「魂だけの状態で死んだら転生も叶いません!ちょ…ホント落ち着け!別に今回は悪さしてねーっての!」
「今回は、ねぇ…。まあ、いいや。入りなよ」

鼻を押さえて引き攣っていた顔が、ホッと安心した表情へと転ずる。必死に言い募る訪問者もといバクラの努力が実り、多少ボコられただけで部屋を通された。といっても、ここは現実世界ではない。「心の部屋」と呼ばれる精神世界だ。一言で言えば、人間の本性を何よりも雄弁に語る空間。僅かな物音で部屋の主の目が覚めたのも、ここが魂そのものの領域だからである。
その空間が、ここまで純粋で穢れのない白という人間は、気の遠くなるような年月を人の心の隅で過ごしてきたバクラも初めて見るのだった。人間の内面、特にその醜さにたっぷり浸かってウンザリしていたバクラは、それゆえ獏良了という人間が大層お気に入りだったのだ。しかし、今まで行ってきた所業の数々により当人からは完全に嫌われていた。自業自得とはいえ、他人に向ける慈悲の100万分の1のお零れも貰えない境遇に、ただひたすら情けなさを感じてトボトボと宿主の心へ入る。

「で、今度は何したの?」

獏良はベッドに腰をかけて簡潔に問う。最初から何か問題を起こしたと決め付けられたバクラは、一瞬ムッとしたがすぐ素直に口を開いた。実際、何か問題が起こらない限りこうして宿主の元を訪ねることなどない。何も用事がないのに訪ねて行けば、宿主にボコられるからだ。用事があったらあったで、結局は今回のようにボコられるのだが。
冷静に考えると、バクラがとんでもなく嫌われていることは一目瞭然だったが、彼は自身の精神衛生上そのことについて考えないことにしていた。

「…さっき、社長に会ってな」
「海馬君?」
意外な名前に、獏良は目を瞬かせる。

海馬瀬人。彼こそは、現役高校生にして大企業社長、己の目的のためならマフィアも動かすゲームオタクという、常識的に考えたら有り得ない(寧ろ訳の分からない)スペック持ちの、獏良のクラスメイトである。できるなら直接関り合いを持つのは避け、遠くから(でも十分に目立ちまくる)その言動を生暖かく見守りたい、そんなタイプだ。
そんな彼とバクラが一体どんな接点を持っているのか知らなかったが、どうせろくでもない問題を抱え込んだに違いないと、獏良は早くも諦めと恨みの混じった感情を抱いた。よりによって海馬。オカルト嫌いな彼とは、なんとなく波長が合わないと獏良は思っているのだ。そもそも、波長が合う・合わないなどといっている時点で、海馬には非ィ科学的だと鼻で笑われることは目に見える。

「新しく作ったゲームのモニターになって欲しいとかで、ハードとソフト渡された」
「は…?モニター?」
どんな厄介な問題かと身構えていた獏良は、存外に平和的だった言葉によって拍子抜けする。
「……何だ、意外とまともな内容だった」
「宿主は社長を何だと思ってんだ…?で、さっそくやってみたんだけどよ。その、何て言うか………正直つまんねぇ」
「珍しく言い淀んだと思ったら、また身も蓋もない感想を…」
そんなことを伝えたら、間違いなく海馬に殺される。これは事前に相談してくれて助かった、と獏良は思った。オカルトを一切認めない彼のこと、きっと獏良とバクラを別人格とは認識していないだろう。もしバクラが下手なことを言えば、それは彼にそのまま「獏良了の失言」として受け止められる。
そう考えていくと、結果的に迷惑を被る(或いは犠牲になる)のは獏良なのである。それを阻止するためにも、このモニターテストは何が何でも上手く乗り切らなくてはならない。

「そんなに簡単にクリアできちゃうゲームだったの?それとも、ストーリーが凄く単調だったとか?」
「いや、そもそもゲーム傾向が……あー、説明面倒だな。見た方が早いから、表に出ろ」
「何か喧嘩売ってるみたいだね」
最後の余計な一言は聞かなかったことにして、バクラは入ったばかりの部屋を出て身体の支配権を握る。ソファに倒れ込んでいた身体を起こしてフラフラする頭を押さえていると、横に半透明の獏良がふわりと現れた。