らぶこめ
クリスマスデートを申しこみたい柔造の話
仕事が終わった帰り道。
夜空を背負った町の中を柔造と蝮は歩く。
まわりには柔造たちと同じように仕事帰りであるらしい人や、学生らしき若者など、たくさんの人が歩いている。
真っ直ぐ家に帰る者も多いだろうが、これからどこかの店に行く者も多いだろう。
建ち並ぶ店にはクリスマスっぽい飾り付けがされている。
そして、楽しげな音楽が流れている。
「……そういえば、もうすぐクリスマスやな」
さり気なさを装って、柔造は言った。
実のところ、何日かまえからこの話題を出す機会をうかがっていたのだ。
「そうやな」
蝮は不自然さを感じなかった様子で返事した。
だから、柔造は話を続ける。
「クリスマス、なんか予定あるんか?」
「ああ、ある」
「……へえ」
即答した蝮に対し、柔造は少し沈んだ声で相づちを打った。
蝮は柔造の表情に陰が差したことに気づいていない。
「家で、クリスマスパーティーするんや」
「え」
柔造は眼を丸くする。
落ちこんだ気分がどこかに吹き飛んでいった。
「おまえん家でか!?」
「そうや。さっき、そう言うたやろ?」
蝮は小首をかしげている。柔造の反応が不思議であるらしい。
「毎年、やってるんやけど」
「宝生家でか……」
「せやから、そうやって言うてるやろ」
「……いや、初耳やったさかい、ちょっとビックリしてしもたわ」
ビックリした原因は、初めて聞いたからではなく、宝生家にクリスマスパーティーは似合わない気がしたからだ。
宝生家のクリスマスパーティー。
ちょっと想像できない。
「ちなみに、どんなパーティーなんや……?」
「どんなんって、普通や。青や錦と一緒に飾り付けしたりして準備するんや」
「飾り付けって、もしかして、折り紙で作った輪っかをつなげていくアレか?」
「そうや。それから、母さまがクリスマスケーキとチキンを用意してくれはるんや」
「定番やな」
「それで、パーティーするんやけど、パーティーのときは興味がない顔してる父さまが、実は一番張り切ってるんやわ」
蝮はクスッと笑う。
「夜にな、私や青と錦が寝たのを見計らって、父さまはプレゼントを私らの部屋に置きに来るんや。サンタさんの格好してな」
「え……」
「サンタさんの格好してはっても、父さまやって、私らにはわかるのになぁ」
楽しそうに話す蝮の隣で、柔造の頭にはサンタクロースの格好をしている蟒の姿が浮かんでいた。
どんなコメントすればいいのか。
しばらく考えて、無難な感想を口にする。
「ええ父親やな」
「うん」
蝮はパッと顔を輝かせた。嬉しそうだ。
堅い表情をしている時が多いので、めずらしい。
……これでは、クリスマスに逢おうとは誘えない。
柔造はクリスマスデートを諦めることにした。
けれども。
「せやけど、蝮、おまえはプレゼントを用意せえへんのか?」
「まさか。用意するに決まってるわ」
「せやったら、俺も弟らの分、用意せんなアカンから、今度の休みの日ィに、一緒に買いに行かへんか?」
「ああ、ええよ」
話の流れに乗って、蝮はあっさりと承諾した。
クリスマスはダメだったが、デートの約束を取り付けるのに成功した。
それ良しとしようと、柔造は思った。
蝮にとってのサンタクロースが蟒から自分に交代する日が来るのだろうか?
いつになるかわからないが、その日が来ればいい。